世界で著書累計100万部の猫を愛する専門家が、猫から日々教えられている生きる知恵を綴った『猫はあきらめ時を知っている』の日本語版が刊行された。お気に入りの隠れ家を持ち、高価な物より段ボール箱を愛し、美味しくない食事は遠慮なく残し、どうやらこっそり人間をしつけているらしい……そんな猫が、常に周りの目を気にして生きる人間たちに、もっとラクに生きるコツを伝える一冊から一部抜粋して紹介しつつ、無類の愛猫家の翻訳者・吉田裕美氏が猫への思いを綴る。
猫にありがちな日常の仕草には、どんな偉人の名言にも勝る、深い人生哲学が込められている!(以下、執筆/吉田裕美)
忍耐強くあれ
ネズミの穴の前で忍耐強く待つ猫を
見たことがあるでしょう?
猫はどんな生き物よりも
辛抱強く待てるもの。
本当に欲しいもののためには、
ひたすら待つ覚悟も必要である。
結果をすぐに求めないこと。
(セリア・ハドン著 平田光美訳『猫はあきらめ時を知っている』より)
わが家の狭いリビングには、三人掛けの大きなソファがドンと鎮座している。
手垢やら猫の毛やらがこびりついてお世辞にも美しいとはいえないこのソファだが、人間も猫も長年、毎日必ずこの場所でゆったりとくつろいだ時間を過ごしてきた。このソファでテレビをながめている時に猫が膝の上に乗ってくることもお決まりの日常だ。
猫がボロボロになったクッションを掘るようなしぐさをしてから、うっとりと座り込む姿をみると、「もっと爪を研いでいいんだよ」などとソファの購入当時には思ってもみなかったことをつい口にしてしまう。
時々、猫がソファに向かい合ってじっとしていることがある。
ソファの上に乗るでもなく、床にうずくまるでもなく。
姿勢を正して眠っているのかと思えば、そうでもなく、半眼に見開いた目は瞑想しているふうでもある。
こんな時の猫の横顔は、本当にりりしく賢そうだ。
いにしえのギリシャの哲学者も、こんな表情をして人生や政治を語っていたのではないかと思う。
だが、猫がじっとしてまったく動かなくなってしまうと、体の具合でも悪いのではないかと心配になる。