けれど、えさの時間が来ていつものアピールを開始し、さらにちゃんと食べているのなら問題はない。
 かかりつけの獣医先生によれば、いつも通りえさを食べるかどうかが家庭で簡単にできる猫の健康の判断基準なのだそうだ。魔訶不思議な「猫とソファの哲学的対話」にはとりあえずかまわないことにした。

 ある時、家の中を片付けていて、ふとソファが気になった。
 ソファの下には、2cmくらいのすきまがあるが、掃除機も入らないので普段はまったく手つかず。
 さぞかしホコリが堆積しているのだろうと、家族の手を借りてソファを引きずらないようにそっと移動させる。

 すると……驚いた!

 ソファがあったところには、ちびた色えんぴつ、ペン、使い古しの乾電池、ボルドーワインやシャンペンのコルク、キラキラ光った紙に包まれた飴玉、買ってすぐ猫が破壊してしまった猫のおもちゃの先についているネズミなど、それはたくさんのモノがあって、我が家のちょっとした歴史を物語っていたのだ。

 そこでハタと気がついた。

 ソファに向かって哲学的対話をしていると思った猫は、自分で押し込んでしまった「おもちゃ」が、生きているネズミのように意思を持って出てくるのを、じっと待っていたのだろうと。

吉田裕美(よしだ・ゆみ)
東京都生まれ。東京学芸大学教育学部初等教育国語科卒。在学中に文部省給費にてパリINALCO(国立東洋言語文化研究所)留学。リサンス(大学卒業資格)取得。日仏両国で日本語を教える傍ら翻訳、通訳に携わる。地域猫ボランティア活動に関わり、これまで多数の猫を預かり里親へ橋渡ししてきた。現在、2匹の愛猫とともに暮らしている。訳書に、『猫はためらわずにノンと言う』(ダイヤモンド社)がある。