世界で著書累計100万部の猫を愛する専門家が、猫から日々教えられている生きる知恵を綴った『猫はあきらめ時を知っている』の日本語版が刊行された。お気に入りの隠れ家を持ち、高価な物より段ボール箱を愛し、美味しくない食事は遠慮なく残し、どうやらこっそり人間をしつけているらしい……そんな猫が、常に周りの目を気にして生きる人間たちに、もっとラクに生きるコツを伝える一冊から一部抜粋して紹介しつつ、無類の愛猫家の翻訳者・吉田裕美氏が猫への思いを綴る。猫にありがちな日常の仕草には、どんな偉人の名言にも勝る、深い人生哲学が込められている!(以下、執筆/吉田裕美)

猫いわく、
人生を豊かにするものはたいていタダである

たった羽根1枚でも、
新聞紙の切れ端、
そして、くしゃくしゃにまるめたアルミホイルでも、
猫は楽しく遊ぶことができる。

人間にとっての楽しみも、
工夫次第で、さほどお金を必要としない。
街中を散歩したり、
小径(こみち)、公園、川辺や森の中の散策は、
タダで楽しめるのである。

(セリア・ハドン著 平田光美訳『猫はあきらめ時を知っている』より)

ペットショップの猫用おもちゃ売り場に行くと、色とりどりのおもちゃが並んでいる。
どれもカラフルで楽しそうだ。
かわいらしい猫の写真やイラスト。
飼い主心をくすぐるキャッチコピーは、眺めているうちにいつしか買い占めたくなってしまう衝動を生む。
いつも買う猫じゃらしを一本買ったついでに、もう少し目先の変わったものに手が出てしまうのもお決まりだ。

いつものペットショップに寄ると、新製品と銘打ってひょうきんな顔をしたネズミのラジコンがある。
決して安くはないが、ドリンク付きパスタランチを一回我慢すれば買えてしまう。
うちには子どももいて、ラジコンは必ず喜ぶだろうから、これは値段が少々高くても、猫と子どもが一緒に遊べる一石二鳥のお得なおもちゃだと、ほくそ笑んだ私。

家に帰って、猫と子どもの前に箱を差し出す。
じっと見つめる猫の前で、子どもが手早く箱を開けた。
シャカシャカという紙の音に、猫のテンションも上がっていくのがわかる。本体に電池を入れ、リモコンを操作すると、ネズミはジーっという音とともに動き出した。

ところがこれ、前進と後退はできるが、曲がったりすることはできない。
大きな音を立ててゆっくりと近づいてくるネズミに、猫は怪訝な顔で警戒するばかり。
子どもはというと、ものの10分もしないうちに迫力がないと飽きてしまった。

まったく動かなくなったネズミに、やおら猫が近づく。

ところが、クンクンと入念においを嗅いだかと思ったら、こちらもぷいっ、と横を向いてしまった。
リモコンを手に自分で操作してみるが、やはり猫は何の反応もせずにじっと見ているばかり。あえなく新品のおもちゃは猫用品箱の肥やしとなってしまった。

丑三つ時(午前二時)かどうか知らないが、家族の者が皆寝静まった頃、カサカサという執拗な音で目が覚めた。

しばらく放っておいたが、まったく止む気配がない。
だんだん目がさえてきた私は、起き上がって音のするほうを見た。
すると、猫が一心不乱に何かで遊んでいる。

猫には悪いが、安らかな眠りを取り戻すためにそれを取り上げた。
よく見ると、それは昼間与えたネズミ型ラジコンが入っていたプラスチックのパッケージだった。
ネズミを取り出したときに子どもがごみ箱に捨てずに放っておいたものだと判明。

しかし、こんなもので満足してくれるなら、わざわざ高いおもちゃなんて買わなくてもよかった……。

吉田裕美(よしだ・ゆみ)
東京都生まれ。東京学芸大学教育学部初等教育国語科卒。在学中に文部省給費にてパリINALCO(国立東洋言語文化研究所)留学。リサンス(大学卒業資格)取得。日仏両国で日本語を教える傍ら翻訳、通訳に携わる。地域猫ボランティア活動に関わり、これまで多数の猫を預かり里親へ橋渡ししてきた。現在、2匹の愛猫とともに暮らしている。