先日、神奈川の路線バスや千葉の観光バスでいずれも死亡事故が起こってしまった。原因はいずれも運転者の健康問題。近年、こうした健康問題に起因する交通事故が増えていることから、バスに安全運転を支援する装置を導入したところがある。そこで今回は、鉄道とバスを比較しながら、バスの安全性について考えてみたい。(鉄道ジャーナリスト 渡部史絵)
去る10月28日、横浜市内で神奈川中央交通の路線バスが停車していた車に追突、右側最前席に座っていた乗客1人が死亡、運転手を含め計6人の死傷者を出すという痛ましい事故が起きた。
ニュースなどで大きく報道されていたので、原形をとどめないバスの衝撃的な映像を見た方も少なくないと思う。路線バスの運転手は、気を失った旨の供述をしているそうである。事故を起こした神奈川中央交通の会見では、運転手は睡眠時無呼吸症候群(SAS)と高血圧症を患ってはいるが、医師の判断で業務に差し障りのないことを述べていた。
バス運転を巡る労務関係の話は非常に厳しく、早朝から深夜までの長時間勤務が常態化していることが、原因の1つにあると思われる。だが、ここでは労務上の話ではなく、装置の安全面から鉄道とバスの違いを比較したいと思う。
緊急時に作動する安全運転支援の装置、
鉄道ではどんなものが採用されているのか
まず、現在の日本の鉄道路線と軌道の一部では、既にATS(自動列車停止装置)が取り付けられており、信号や停止位置を冒進したり、速度が超過していたりするなど万が一の際には、非常ブレーキが自動的にかかり、列車を止める仕組みとなっている。
ATS以前には古くから「デッドマン装置」というものも設けられており、運転士が失神などで意識を失った際に、事故を防ぐために力行(加速)を断ったり、ブレーキをかけたりするものである。最近ではデッドマン装置の進化版ともいえる「EB装置(緊急列車停止装置)」を採用している社局もある。