a『外政家としての大久保利通』
清沢 洌著(中央公論社/1993年)(オリジナル版の出版は1942年)

 本書の完成は、昭和16年10月。真珠湾攻撃を直後に控えた中で、透徹した言論人だった清沢洌(1890~1945年)の精いっぱいの対米開戦反対の主張だった。同じ薩摩藩出身でも、大久保利通は西郷隆盛に比べて人気がない。その大久保の「征韓論」での活躍などが、本当の国益を守ったとしている。「国家を経略しその国土人民を保守するには深慮遠謀なくんばあるべからず。故に進取退守は必ずその機を見て動き、その不可を見てやむ。恥ありといえども忍び、義ありといえども取らず」という大久保の言葉に、清沢の思いがにじむ。

 中国の南シナ海への進出、米トランプ大統領の力ずくの経済外交など難しい課題に直面する日本外交を考えたいという向きにお薦めである。

(国家公務員共済組合連合会理事長 松元 崇)