2018年の大河ドラマ「西郷どん」が好評だ。主演の鈴木亮平の好演によって、一介の藩士だった西郷隆盛が、日本史上屈指のスケールを誇る英雄へと成長していく様が生き生きと描かれている。その西郷だが、終生ある書物を“バイブル”として肌身離さず持っていたことはあまり知られていない。その書物の名は『言志四録』。現代にも通じるリーダーシップの極意が詰まった本書の秘密を、歴史学者であり、『超訳 言志四録 西郷隆盛を支えた101の言葉』(すばる舎)の著者である濱田浩一郎氏が解説する。
西郷隆盛が15年肌身離さず持ち歩いた
言志四録とは?
『言志四録』とは、幕末の昌平坂学問所の儒官(現在でいう東京大学総長)の佐藤一斎(以下、一斎先生)という学者が、数十年にわたって書き継いだもので、リーダーシップ、人や仕事との向き合い方、学ぶことの大切さなどについて縦横無尽に語られている随想録、現代風にいえばエッセーです。
一斎先生自身の知名度は高いとはいえませんが、彼の弟子には「松下村塾」で幕末の俊英たちを育んだ吉田松陰の師匠・佐久間象山や、坂本龍馬や勝海舟の師である横井小楠がいます。
つまり一斎先生の孫弟子、ひ孫弟子たちが倒幕を成し遂げ、近代日本を築いたわけであり、その一斎先生の思想がすべて詰まった『言志四録』は、「明治維新の原動力」になったと言っても過言でありません。
西郷隆盛(以下、西郷さん)がこの書に触れたのは、2度目の流罪先である沖永良部島(おきのえらぶじま)の獄中でした。時間だけはたっぷりあった西郷さんは、さまざまな書物を読破したのですが、中でも『言志四録』に感銘を受けたようで、印象的な一節を書き抜いて101篇にまとめ、それを「西南戦争」で敗死するまでの約15年間、肌身離さず持ち歩いたのです。