福島第一原発の事故は、日本のみならず世界中の国々のエネルギー政策を、根底から揺さぶった。人類は「フクシマ以降」のエネルギー供給源をどこに求めていくべきなのか。また、エネルギー供給に新たなイノベーションは期待できるのか。『石油の世紀』でピュリツァー賞を受賞したエネルギー問題の世界的権威、ダニエル・ヤーギン博士に聞いた。
(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)
「フクシマ以降」の世界は
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1947年生まれ。ケンブリッジ・エナジー・リサーチ・アソーシエイツ所長。エネルギー問題の世界的権威。『石油の世紀』でピュリツァー賞受賞。イエール大学卒、ケンブリッジ大学で博士号取得。父親はシカゴ・トリビューン紙の記者。
――今回上梓された『探求――エネルギーの世紀』(日本経済新聞出版社刊)の<序>で、真っ先に福島第一原発事故のことが書かれていますが、もしこの事故がなければ、我々一般人はエネルギーのことを考えなかったのではないでしょうか。
そうですね。福島第一原発事故はエネルギー供給とその将来について、深刻な問題を提起したと思います。日本では特に将来、何から電力を得るのかについて、大きな不安を生じさせたことは明らかです。
――この事故が起きるまで、ほとんどの人は原子力発電について踏みとどまって考えたことがなく、原発の存在を当たり前のように考えていたと思います。
その通りだと思います。原子力発電は日本の電力の防波堤と考えられていたので、ほとんどの人が当たり前と捉えていたと思います。原子力発電の割合はより増加すると予想されていたでしょう。原子力発電は、日本で特定の基準を満たし、非炭素エネルギー源として、より大きな“エネルギーの独立”を与えたのです。日本が原子力発電に乗り出した理由の一つは、輸入エネルギーに依存する度合いを減らし、エネルギー面でより独立するためでした。
――そうは言っても、原子力発電は核廃棄物が出ます。その点から原子力発電をどのように見ますか。
福島原発事故の前は世界中で原子力ルネッサンスが広がり、原子力発電は今後より大きな役割を果たし、核廃棄物の問題はいずれ解決するだろうという一般的な見方がありました。むしろ二酸化炭素についての議論が盛んだったので、核廃棄物のことはあまり注目されませんでした。しかし、3.11の福島原発事故が、原子力ルネッサンスを終わらせたことは明白です。