ビジネスの成否は「交渉力」にかかっている。「強い相手」に手玉にとられず、交渉の「実」をあげるにはどうすればよいか? アメリカの雑誌で「世界で最も恐れられる法律事務所」に4度も選ばれた法律事務所の東京オフィス代表であるライアン・ゴールドスティン米国弁護士に、『交渉の武器』(ダイヤモンド社)という書籍にまとめていただいた。本連載では、書籍から抜粋しながら、NTTドコモ、三菱電機、東レ、丸紅などの代理人を務めるほか、世界的に注目を集めるビジネス訴訟で戦っているライアン弁護士の交渉術の「奥義」を公開する。

「世界で最も恐れられる法律事務所」の交渉術

 私は、シカゴで生まれ育ったアメリカ人弁護士である。
 米国弁護士になった当初は、日米を行き来していたが、8年前に日本に移住。アメリカの法律専門誌で「世界で最も恐れられる四つの法律事務所」に4度選出された、クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン法律事務所(以下、クイン・エマニュエル法律事務所)の東京オフィス代表を務めている。

 アップルvsサムスン訴訟にサムスンの代理人のひとりとしてかかわったほか、NTTドコモ、三菱電機、東レ、丸紅、NEC、セイコーエプソン、リコー、キヤノン、ニコン、円谷プロなどの有名企業から中小企業まで、主に日本企業の代理人として、海外企業との交渉・訴訟を行うのが私の仕事だ。日本企業の味方をすることで、愛する日本のために貢献することが、私の最も重要なミッションなのだ。

 私が初めて日本に興味をもったのは大学時代のこと。
 ダートマス大学に入学した1989年当時、アメリカの対日貿易赤字は膨らむ一方で、米国議会が対日強硬策を政府に迫るなど反日感情が高まっていた。しかも、日本はバブル経済の真っ只中。資金力を誇る日本の大企業が、ニューヨークの象徴であるロックフェラー・センターを買収したことで、ジャパン・バッシングの火に油を注いでいた。

 しかし、メディアで連日繰り広げられる「日本叩き」に、私は違和感をもっていた。なぜなら、自分を含めてアメリカ人の大半は日本のことをよく知らなかったからだ。その証拠に、私は高校時代までに日本の歴史を勉強したことがなかった。

 世界史の授業で教えられるのは、メソポタミア文明を出発点に、エジプト、ギリシャ、ローマ、ヨーロッパ、そしてアメリカの歴史だけ。太平洋戦争を戦った相手国であるにもかかわらず、日本のことを学ぶ機会はまったくなかったのだ。

 よく知りもしない相手を一方的に責めるのはフェアなことだろうか?
 私はそう思った。そして、「いったい日本とはどういう国なのだろう?」と興味をもった。かすかな共感を覚えていたといってもいいだろう。いま思えば、そのように感じた背景には、私の一族が辿った歴史があったのかもしれない。

 私の一族はポーランドにルーツをもつユダヤ系移民だ。
 祖父の代まで住んでいた村は、すでに地図上に存在しない。1900年代初頭に過激化したユダヤ人迫害行為「ポグロム」によって焼き払われたからだ。祖父が命からがらアメリカに逃げのびて以来、私の一族はマイノリティとして生きてきた。だからこそ、バッシングを浴びる日本に共感を覚えたのかもしれないと思うのだ。