前にも経験していた
何もかも億劫なダルさ
(ああいやだ、何もかもめんどくさい。今日はしなくちゃいけないことがあるんだけど、動きたくない。でも起きなくちゃ。だけどだるくて、だめ)
ベッドの上で、実夏さん(仮名・29歳)は悶々と葛藤していた。目覚ましのアラームはもう20分以上も鳴りつづけている。ほんの少し、手を伸ばして止めればいいのだが、それさえも億劫で仕方ない。
ちなみに「億劫」は本来、「非常に長い時間」を指す仏教用語。「劫」は古代インドにおける最も長い時間の単位で、「一劫」の長さは100年に一度天女が高い岩山に舞い降りてきて羽衣で頂上をなで、その摩擦によって岩山が消滅する時間、要するに「無限に近い時間」を表す。
(で、この“一劫”の一億倍が「億劫」で、考えらないほど長い時間を指しているのよね。分かるわ。今の私には、トイレに行くのも面倒。まして、食事して、顔を洗って、着替えして、外に行くなんて、無理でしょ)
以前暇つぶしにスマホで検索した「億劫」の意味を思い出しながら、もそもそと寝返りを打つ。
「大丈夫かい。具合が悪いの」
ドアが開き、夫の吉弘さん(仮名・40歳)が心配そうに尋ねてきた。
「うん、なんか動けないの。目を開けているのもつらい気がする」
弱々しく答えながら、実夏さんの心は申し訳なさでいっぱいになる。