ありのままの自分を受け入れる

 このように我々の多くは、人からどう思われるかを気にし、小さいときから他者の評価を恐れて生きています。そこで幸せに生きるための二つめのポイントは「ありのままの自分を受け入れる」ことになります。これも非常に大事なことです。

 人には「この自分」しかありません。「今のこの私」しかない。パソコンのような道具であれば買い換えることができます。けれど「この私」は他に置き換えることはできません。どんなに癖があってもずっと「この私」でいるしかないのです。したがって「この自分」をありのまま受け入れる、あるいは好きにならなければ、その人は幸せになることはできないでしょう。

 アドラーはこう言っています。「自分に価値があると思えるときだけ勇気を持てる」と。「自分に価値があると思える」というのは、「この私を受け入れられる」ということですね。そう思えたときにだけ勇気が持てるのです。

 この勇気には二つの意味があります。一つは「仕事に取り組む勇気」です。なぜ仕事に取り組むのに勇気がいるか、それは結果が出るからです。結果が出るのを恐れる人は多いですね。一例をお話ししましょう。

 かつて私は奈良女子大学で古代ギリシア語を教えていました。非常に優秀な学生さんばかりでした。ある日の授業で、一人の学生さんを当てました。古代ギリシア語を日本語に訳すだけの質問です。しかし答えない。そこで私は「今答えなかった理由が自分でわかっていますか?」と聞いたのです。すると彼女は「もしこの問題に答えて間違っていたら、先生にできない学生だと思われるのが嫌だった」と答えたのです。答えてくれないとどこが理解できていないかわかりませんし、私の教え方に問題にあることもわからないので、「間違っても絶対にそんなことは思わないから間違ってくれていい」と伝えると、ようやく彼女は間違うことができるようになりました。

 つまり、その学生さんはありのままの自分を受け入れることができていなかったのです。評価は仕事や勉強にはつきものです。避けることはできません。けれど、評価をされて、できないことがわかったなら、そのありのままの自分を受け入れるところから始めるしかありません。そうした勇気が必要ということなのです。