対人関係のなかに入っていく勇気

 もう一つの勇気は「対人関係のなかに入っていく勇気」です。人と関われば必ず摩擦が生じます。世の中はいい人ばかりではなく、なかにはイヤな人もいますし、人から傷つけられるような経験をすべて避けて通るわけにはいきません。ですから、対人関係から逃げようとする人がいても不思議ではありません。

 アドラーは、「あらゆる悩みは対人関係の悩みだ」と言っています。たしかにそれ以外の悩みはないと言っても過言ではないでしょう。しかし他方、生きる喜びや幸せもまた、対人関係のなかからしか得ることはできないのです。

幸福についてアドラー心理学に基づいて語る岸見一郎
「EI(感情的知性)シリーズ」創刊記念イベント「働く私たちの幸福学」には大勢の参加者が詰めかけ、熱心に岸見先生の講演に耳を傾けました。

 今日の会場には既婚者の方も多いと思いますが、なぜ付き合っていた彼・彼女と結婚する覚悟を固めたのでしょう。この人と一緒になればきっと幸せになれるという確信を持てたからですよね、たとえその決心が数年後に大きな誤りだったと気づいたとしても(笑)。そう考えたとき、対人関係が生きる喜び、幸せの源泉だとわかるはずです。だからそこに飛び込んでいかねばならない。でも傷つけられる、嫌われる、憎まれる、裏切られる、そういうリスクは常にあります。だからこそ、対人関係のなかに入っていくには勇気が必要なのです。これは言い換えれば「幸せになる勇気」なのです。

 意外と思われるでしょうが、幸せにならないほうがいいと考えている人は結構多いのです。幸せにならず不幸であれば人から注目される、大変ですねと言ってもらえる。意識的ではないにせよそれを無意識に望む人はいると思います。幸せになってしまうと、当たり前すぎてあまり気にしてもらえない。つまり、他者から注目や同情をしてもらえなくなるというリスクが生じるのです。

 人間にとっての基本的な欲求は所属感です。どこかの共同体に居場所があると感じられることですね。でも、共同体の中で自分が中心を占めようとしてはいけません。共同体の中心に自分がいるわけではないことも知っておかねばならない。それを理解することにもやはり勇気が必要なのです。

 以上のように「ありのままの自分を受け入れる」ためには、「仕事に取り組む勇気」と「対人関係の中に入っていく勇気」が必要なのです。

後編に続く