2人は都内の、別々の大学に進学した。

 大学生としての新生活に強い刺激を感じながらも、Aさんは彼女を思い続けていた。大学が夏休みに入る頃、高校時代の同級生が幹事となって気の早い小規模同窓会が開かれることとなり、そこでAさんはアケミと再会する。やや大人びて、さらにキレイになっていた。

 大学生活を満喫している様子であることに気後れしたが、「ここを逃したら彼女は一生遠い存在となってしまう」と危機感を抱いたAさんは勇気を振り絞り彼女をデートに誘う。「待っていたよ」的な返事があり、それから2人の交際がスタートした。そこからはバラ色であった。卒業してから会えなかった数ヵ月を取り戻そうとするかのように、2人は頻繁に会って愛を確かめ合った。

 2人の間に不穏が兆したのはその年の年末だった。

 アケミから「来年海外に語学留学に行こうと思っている」と相談されたのである。Aさんは彼女の進路を応援したい気持ちと別に、やはり離れがたい思いがあった。複雑な感情をコントロールするにはAさんはあまりに恋愛に対して未熟で、そして若かった。

 2人は口論することが多くなった。

 留学中も遠距離恋愛を続けることで合意してはいたが、Aさんはカレンダーを眺める度に焦燥感に駆られた。時間に追われている人が腕時計を何度も確認してしまうように、Aさんは日に何度もカレンダーを見て過ごした。これまでのように2人で過ごせるのはあと数ヵ月の短い期間。それが終わってしまうのがやるせなかった。

 慈しむべき時間が日一日と過ぎていくにつれて、2人の仲はぎこちなくなっていった。

「一緒にいられるのはあと少しだから、最後くらいは楽しく過ごしたいのに」とアケミが泣き暮れたこともあった。Aさんは焦りと、進路のためとはいえ自分から物理的な距離を取ることを選択したことへの憤りと、彼女を苦しめてしまう自分への怒りなどで混乱し、さらに態度をこわばらせた。結局2人の仲が改善する糸口は見つからないまま、彼女はオーストラリアへと旅立っていった。

 遠距離恋愛ということで文通を始めた2人だったが、向こうで楽しく生活を始めた(らしい)様子のアケミにAさんは不安と不満を募らせた。その状況に嫉妬し、具体的な男性の影が見当たらないにもかかわらず浮気を疑った。Aさんはガタガタに崩したバランスのまま彼女に向き合い、溝をさらに深めた。