なぜ、地方は衰退するのか?

すでに20年近く地方でのビジネス分野で奮闘し、酸いも甘いも経験してきた木下斉氏は、その理由を「稼ぐ力」の不足だと指摘する。
新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』の発売を記念して、「稼ぐ力」のヒントを木下氏に語ってもらった。

――前回は、地方でのイベントにいかに「稼ぐ」という視点が欠け、開催することが自己目的化してしまっているかをお話しいただきました。では、実際に稼ぐイベントを開く際、気をつけておくべきことはあるのでしょうか?

赤字でもやめられないイベントが、活性化どころか関係者をさらに疲弊させ、衰退を加速させる原因になっている実態を打開することがまず大切ですが、もし新たに始めるならば、「稼ぐ」企画にするために試してほしいポイントが7つあるのでお話しします。
「地方で大切なことはやめること」と言っておいて、次なる「やめられないイベント」を自分が企画してしまったら洒落にならないですから(笑)。

(1)定期開催で集客ベースを積み上げる

稼ぐイベント、7つのコツ木下 斉
地域再生事業家
1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程(経営学)修了。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。内閣府地域活性化伝道師。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画し、高校三年で起業。全国各地で民間資本型の地域再生事業会社を出資経営するほか、地方政策提言ジャーナルの発行、400名以上が卒業して各地で活躍する各種教育研究事業を展開している。

まず、定期開催にすることです。

毎回まったく違う日や曜日に開催すると、毎回その告知を行き届かせなくてはなりません。それだと、集客のベースを作るのはかなり難しい。毎度チラシをつくったり、配布したり、ネットで発信したりを繰り返す手間は半端じゃありません。赤字のイベント事業を見てみると、このチラシの制作、印刷、配布に多額なコストをかけているところが結構あります。

逆に、定期的に開催して「あ、毎週第一金曜はあのマーケットだ」とお客さんの頭の中にイメージされる状態を作れれば、徐々に集客ベースを積み上がっていき、告知にあまり力を入れなくても人が集まってくれるようになります。別に毎月でなくても、二ヵ月に一度の第四土曜日でも、三ヵ月に一度の第三日曜でも構いません。

もちろん、リピートしてもらえるだけの中身があるイベントを企画することが前提条件ですが。

(2)ターゲットを絞り、軽い閉鎖性を生む

次に、ターゲットを絞り込み、軽い閉鎖性を生むことです。これは、重要ですが意外と見過ごされがちなポイントです。フルオープンで、赤ちゃんから高齢者までだれでもいいから来てください、というのは、「誰に来てもらうか」を考えるのを放棄しているだけです。
誰が対象かのイメージがつかないため告知もあまりできず、来たとしても楽しめる内容でなかったりする。そういうミスが重なると、結局満足度下がります。

――とはいっても、開催前に集客が心配になり、思わず「誰でもいいから来て」と発信したくなりそうです。

最初から集客数ばかりを追い求めて不特定多数の人を呼ぶと、トラブルが多発したり、たくさんきても購買に繋がらない結果、運営側が骨折り損のくたびれ儲けで終わったりするんですよ。過度の集客数を追い求めると、結局来る人をさばくだけでも大変になる。出店も、最初からたくさん集めようとしすぎるから玉石混交となり質が下がる。だから、最初は小さく始めるのが大切なんです。

最近では男女差や年齢差ではなく、「子育て中のファミリー向け」とか「普段は通勤して、都市部で飲む人たちがこの日だけは地元で飲む」とか、ライフスタイルでの括りで整理することも多くあります。そうすると、自ずと告知すべき場所もわかり、配慮すべきポイントも見えてきます。立ち上げ時のリソース限られるときは、むしろ意図的にターゲットを狭めるほうが運営面でも楽になることが多いんです。

(3)単価を決め、消費総額を伸ばすチケットを売る

イベントはつい集客数何万人、などの数字に目が行きがちですが、重要なのは「消費総額」です。その全体像を把握するとともに皆の消費意欲を喚起するのに有効なのが、「イベントだけに使えるチケットを用いて、その場で消費してもらう」チケット制です。
事前に購入すると多少のディスカウントを効かせるというスタイルにし、「毎回使える」ではなく、「当日使い切り」にするのが重要です。これにより、消費が伸びるだけでなく、事前に集客数と消費総額も見えるという運営側にもなんともありがたい効果もあります。

――実例があったら教えてください。

今年の夏に、瀬戸内のレモンや岡山の白桃の生産者の方々と組み子ども向け経済教育プログラムを開催したのですが、そのイベントでも単価500円のコイン制を取り入れました。これにより、このマーケット全体の単価が500円、1000円に上がる。これも大切な効果ですね。チケット制にすることでイベント全体の消費単位を設計していくわけです。
小さなイベントでも、毎月確実に黒字になる。出店者の商品は売り切れる。だから、継続できるという仕掛けです。

だから、タダで地方の物産とかを配ったらいけないんですよ。彼らは広告宣伝だと言い張っていますが、それで爆発的に売上があがった事例があるのかと思うことばかりです。一事は万事。ちゃんと一度一度のイベントでも、しっかり儲かる仕掛けを作ることが大切です。
実務的にいえばチケット販売、出店者との換金の手間はかかりますが、それ以上に先に売上の全体像が把握できるようになり、イベント保険などもかけられたり、手数料収入が入ったりというメリットのほうが大きい。それに、販売されたチケットの中には使われずに終わるものも出てきます。それもまた運営側の収入になるので、必要なフィーを支払ったり、次に必要な機材などを少しずつ買い増していくことも可能になります。

(4)売り物にストーリー基準を作る

――なるほど。少しずつイメージはつかめてきましたが、出店者はどう集めればいいのでしょうか。
マーケットを開催すると、誰でもできる安易な商品に売り物が偏る傾向があります。たとえば夏になるとどこでもかき氷をやるとか、儲かるからと焼きそば屋や粉もの系ばかりが販売されるとか。だからあえて、そういう店はNGにして、もう一捻りするのです。

たとえば、同じかき氷でも、先日熊本のマーケットには「エコなかき氷屋」が出店してくれました。自分で自転車をこいで発電し、かき氷を削るマシーンです(笑)。こういうのは、面白くていいですね。あとは、天然氷を使っているなど、「プラスアルファのストーリーがあるか」を問うことはとても大切です。

震災前に熊本で行っていたシードマーケットという企画では、今後まちに店舗を開きたい人だけが出店できる、という審査基準を持っていました。
出店者はいずれは店を出したいと思って出てくる人だけだったので、今やここから実際に店を出している人が何人も出ています。そしてその人たちによって、今度は白川という都市河川沿いを活用した白川バンクスというチームができて、別の企画がスタートしていたりといい循環が起きています。

コンセプトを決め、ストーリーを設定するだけで、売り上げとともにその後の発展可能性が大きく変わります。

(5)ネットをフル活用して省力化する

――コンセプトを明確にし、商品も安易なものに流れない、と。運営面では、何か気をつけるべきことはありますか?

ネットをフル活用することですね。

運営に関する会議も基本的にはネットでやりとり。地方のイベントといっても他の仕事と特別何かが変わるわけではないので、きちんと分担を決め、その報告をあげる、といった基本をしっかりやるのは当たり前ですね。出店者はそれぞれ仕事を持っている中イベントを立ち上げるわけなので、ネットを使った効率化は必須です。

さらに最近では、出店者から頂く出店料も基本的にインターネットでの事前決済を活用しています。クレジットカードを持っていない人はコンビニ決済で対応すればいい。当日のドタバタしているときに出店料の徴収に歩くのは、実務としてとても大変なんですよ。
イベントでは搬入搬出も時間制約などがあり大変です。当日、スタートしたらしたでお客さん対応に手がとられる出店者の方と運営側でお金のやりとりを正確にやるには限界があります。そのため、インターネットでの事前決済にするわけですね。あとは、ドタキャン防止にもなりますから(笑)。

現金のやりとりが最小化されると、会計もシンプルになり、収支も即座にわかります。
よく「ネットが使い切れない人はどうするんだ」みたいな話が出るんですが、そういう人には値上げして対応するのが基本方針です。手間がかかるということは、運営コストがプラスになるということ。その分、値上げで対応するわけです。
自分でネットに入力して決済できる人と、いちいち紙の受け渡しをして現金の管理まで必要となる人とでは、価格差があるのが当たり前ですから。

日本では、なぜか手間をかけて安くするのが好きな人が結構いて、それが運営の負担になります。そんなどうでもいいところで苦労しても、竹槍の練習のごときで成果には繋がらないので、ちゃんと省力化し、手をかけなくてよいところはかけないと割り切るのが一番です。

先ほどのチケットも、当然ネット販売が原則ですね。今後は、当日の会場でもキャッシュレス化が進んでいくはず。クーポンも紙からクーポンコードの販売に移り変わっていくでしょう。そちらのほうが手間もかからず、その分安くしても稼げるようになるのでいいことですね。

(6)「辞めどき」を決めておく

あと大切なのは、最初に「辞めどき」を決めておくこと。
半年だけやってみようとか、一年やってここまでいかなければやめよう、という基準を設けておくことです。やめるべきなのにやめられないという状態に陥るのは、「明確な目的」と「それに沿った基準」を作っていないからです。

「この目的のために、この時期までにこの水準を達成していないならダメだね」という話は最初にしておきましょう。始めるときに「やめどき」の話をするのは縁起が悪いなどと言う人もいますが、そんなことを言っているから、「やめどき」すらわからなくなってしまい、だらだらと続け、やること自体が目的化してしまうわけです。

今までのイベントをやめさせるのは大変だとしても、少なくとも今後自分が関わるものは基準を理由にし、あっさりやめられるようにしておく配慮は不可欠です。立ち上げた人がその立場を去ったために、「やめる」という厳しい決定ができずにいるイベントも少なくないですから。

――たしかに、最初に「やめる基準」をつくっておけば、自分が役職から降りても、やめる理由を後輩たちに残せることになりますね。

(7)続けるコツは、「儲かること、楽しいこと」

私は高校時代から、まちでの取り組みが続くコツは「儲かること」と「楽しいこと」だと教わってきました。
イベント一つとってもちゃんと出店者も運営も黒字に持っていくのは当たり前の話です。
けれど、いくら儲かっても歯を食いしばってやっていたら勢いを維持することはできません。やはり、自分たちが楽しんでいることが重要です。
運営側が「言われたからやっている」「担当になったからしょうがなくやっている」と思うようになったときは、もう「やめどき」だとも言えるでしょう。ましては赤字で、補助金なしでは運営さえできないなら、さっさとやめろと(笑)。

単発型のイベントすら、黒字にして、皆で楽しめるようにできないのなら、大きな開発事業などをうまく成功させることなんて到底できません。赤字のイベントをやっていた人たちが、駅前にとんでもない複合施設を再開発して潰れたりするなんて、全国でよく見られる光景です。
何事も積小為大。小さな黒字と、小さな楽しさの積み上げがまちの力になるわけです。