医師が予防接種を
嫌うようになる

 医師としては、予防接種をしたことによって後遺症が出た場合、損害賠償を求められる可能性がある。予防接種が義務であれば淡々と接種するしかないのだが、義務でないとすると、できれば接種しないでほしいと望むかもしれない。

 その結果、相談されても接種を勧めないかもしれない。理由は二つある。

 第1に、「人間は小さな確率については実際より大きく感じる」ということだ。飛行機に乗りたくないと思う人は多いだろうが、それは飛行機が墜落する確率を実際より大きく感じているからだ。それと同様に、後遺症が残って患者から訴えられる可能性を実際より大きく感じる医師は多いと思われる。

 第2に、「予防接種のおかげで罹患を免れた人は医師に感謝しない」ということだ。予防接種によって後遺症が残った患者は必ず文句を言うが、予防接種のおかげで助かった人は、「自分は予防接種を打たなければ風疹にかかっていたはず」ということを知らないから、感謝してくれないのだ。

 医師は、そんなことならよほど高い利益が見込めない限り、予防接種を打つのは控えたいと思うだろう。

 予防接種を打たずに風疹にかかった患者を診察し、治療すれば感謝されるのであれば、その方が得だ。ならば、必死で予防に努めることは合理的ではない。

 もちろん、多くの医者は私利私欲より世の中の事を考えて、風疹の蔓延を防ぐべく予防接種を行うだろう。だが、経済学者は性悪説で物を考えることも多いので、医師には失礼と思いながらも、理屈を並べてみたというわけである。あしからず。

(久留米大学商学部教授 塚崎公義)