風疹の流行Photo:PIXTA

 関東圏から始まった風疹の流行が続いている。

 子供の病気と勘違いされやすいが、患者の9割は20歳以上の成人だ。特に学齢期にワクチン接種を中断された30~50代の男性が、全患者の3分の2を占める事態になっている。

 風疹は基本的に良性疾患だ。発熱、発疹、耳の後ろなどリンパ節の腫れを「風疹の3徴候」というが、熱が出るのは患者の半数ほど。3徴候が全く生じない「不顕性感染」も15~30%ほどいる。

 しかしその一方で、見ず知らずの子供に一生残る障害を負わせてしまうこともある。それが「先天性風疹症候群(CRS)」だ。

 CRSは妊娠6カ月(20週)ごろまでの妊婦が風疹に感染することで胎児が感染し、心臓や眼、耳に先天性の障害が生じるもの。

 流・早産リスクも上昇し、妊娠1カ月以内(~4週)に感染した場合の流・早産率は50%以上、妊娠2カ月以内(4~5週)なら20~30%に達する。

 低体重(未熟児)で生まれるリスクもあり、新生児期に溶血性貧血や肝炎などを発症しやすい。このほか頻度はまれだが、脳内に潜伏したウイルスの持続感染で進行性全脳炎を発症した場合、軽度の知的障害や発育障害が生じる。残念だが、予後は極めて悪い。

 5年前、つまり2012~13年に風疹が大流行した際、CRSと確認された新生児は45人に達した。追跡調査が行われた結果、これまでに11人が死亡している。

 このときの感染者数は、感染症法に基づいて医師からの届け出があった患者だけで1万4344人に達した。今年の流行も侮れない。

 風疹ウイルスは、くしゃみや咳を介した飛沫感染だが、ウイルスが小さいので、マスクはほとんど役立たない。1人の感染者が周りの何人を感染させるかを表す「基本再生産数」は7~9人。この中に妊婦がいる可能性を考えると、さらに増えるわけだ。

 感染予防には風疹ワクチンの2回接種が有効だ。妊婦は接種できないので、妊娠の可能性がある女性の家族はワクチンを接種しよう。また職場の配慮──風疹患者や妊婦の自宅待機などもお願いしたい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)