「1秒単位」で消費者の心が離れていく時代。だからこそ、PR動画もプレゼンも文章も営業トークも、「1秒でつかみ、1秒も飽きさせない」ことが、売上に直結する。そして、あらゆる商品のマーケティングや企業の競争戦略において、「ストーリー作り」が欠かせない時代になったとわれる。
では、そもそもストーリー作りとは何か? なぜ、商品にストーリーが不可欠なのか?
本記事では、視聴者が誰も知らない完全な「市井の人」(=素人)を主役にするドキュメンタリー番組『家、ついて行ってイイですか?』の仕掛け人であり、ストーリーテリングの名手であるテレビ東京制作局ディレクターの高橋弘樹氏が、新刊『1秒でつかむ「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』の内容をベースに、ストーリーテリングの本質をお伝えしていく(構成:編集部・今野良介)。
ストーリー無くして成立するのは「エロ」や「グルメ」だけ
拙著『1秒でつかむ』で書いた32の技術の最も大切な部分は、「物事の見えていない魅力を引き出す技術」です。
テレビなら、取材対象の魅力。テレビ以外なら「取材対象」に、自分が魅力を引き出す課題を当てはめてみてください。
・PRなら、自社製品の見えない魅力を「引き出し」、消費者に訴える
・営業なら、自社製品の見えない魅力を「引き出し」、クライアントに訴える
・就活生や転職活動者なら、自分自身の見えない魅力を「引き出し」、企業に訴える
ということです。この「引き出し」の部分の技術です。
少しだけテレビの話をさせてください。
ぼくがやっている『家、ついて行ってイイですか?』という番組は、まさに視聴者にとってまったく知らない人のストーリーを「魅せる」番組です。「魅せる」とは、「興味を持って観てもらう」という意味と思ってもらってかまいません。
そして、創作ではなく、ノンフィクションの中にストーリーを発見して魅せていく「ノンフィクション・ストーリーテリング」というジャンルになり、その中でも、扱っている対象が「市井の人」=まったく知らない人という意味で、とても難易度が高いストーリー作りです。
難易度が高いとは、描く対象に関して、「共有されているストーリーがゼロなので、イチからすべてを作らなければならない」という意味です。
しかし、「難易度が高い」と聞いた瞬間、「だからこそ!」というのが、常に挑戦者であるべき最下位企業テレビ東京に入社した社員の本領の発揮どころ。そして、一番仕事をする上でおもしろいところです。難易度が高いからこそ、それに成功すれば、「見たことないおもしろさ」になり、より多くの人々に興味を持ってもらえ、その人々の心にも強く印象に残るのです。
『家、ついて行ってイイですか?』を例にとれば、「終電を逃した人の家についていく」という企画は決まり、その先の、実際について行かせていただいた方の家の撮影や、インタビューといったVTR作りにあたります。
「ストーリー作り」は、極めて単純に言えば、「撮影・取材」と「編集」で構成されます。単なるシーンや事実の羅列は、それ自体では、何の意味も持ちません。
シーンや事実の中から、
(1) 取材対象者(商品)
(2) ディレクター(作り手)
(3) 視聴者(消費者)
の誰かが、何らかの意味を見出して解釈することなくしては、エンターテインメントとしても、芸術としても成立しません。
「ストーリー」なくしてコンテンツとして成立するのは、「エロ」や「グルメ」など、人間の本能に訴えかけるジャンルだけです。
もちろん、それは「なくても成立する」というだけで、さまざまな都市で制限時間以内にナンパ・テレクラ・出会い系サイトなどを用いて素人女性とメイク・ラブできるかを競うカンパニー松尾監督の『テレクラキャノンボール』のように。久保ミツロウが漫画『モテキ』を作るキッカケになったと公言する松江哲明監督の童貞脱出ドキュメンタリー『童貞。をプロデュース』のように。グルメをそれを作る料理人が背負う半生や人間関係を描いた上で、さらにバトルという形式で見せることで深夜帯ながら超高視聴率を記録した伝説の演出家・田中経一の『料理の鉄人』のように。さらには「エロ」と「グルメ」という二大本能の、奇跡のコラボレーションを標榜して一流料理店をヤレるかヤレないかという目線で評論し倒すホイチョイプロダクションズの古典的名著『東京いい店やれる店』や、それをもとに映像化した『東京上級デート』のように。
「エロ」や「グルメ」にストーリーを掛け合わせることは、歴史に名を刻む名コンテンツを作るヒントでもあります。すべて名作です。