熟練農業者の作業ノウハウを形式知にする
ビッグデータとAIが現場ニーズを支える
ビッグデータと、その解析のためのAI活用が大きな力を発揮するのが「熟練農業者の作業ノウハウ」の再現だ。
篤農家は自らの経験や勘に基づく、すぐれた栽培管理と作業ノウハウを持っている。いわば暗黙知だ。これを形式知にできれば高度な技術が継承されるだけでなく、新規の就農者の学習に活用できる。
NECソリューションイノベータなどにより、すでに17府県の10品目以上でシステムの実用化が図られている。ノウハウを提供した熟練農業者は、それを知的財産として対価を得ることもできる。ちなみに熟練農業者のノウハウは、従来は一子相伝か、地域で共有される程度だった。しかしノウハウを知的財産として保護することで、経済的なメリットを備えながら広く共有できる動きが加速するだろう。農林水産省でも知的財産として保護、継承するための具体策を検討している。
また、AIを活用した画像診断であれば、不慣れな生産者でも病害虫の発生を的確に把握し、早期診断・早期対応で病害虫による被害を最小化できる。このシステムは今「人工知能未来農業創造プロジェクト」で開発中だ。
さらにセンシング技術とAIを活用した画像診断、さらにロボティクスが一気通貫で連携することで短期間に多くの人手を必要としていた収穫作業も変わる。「革新的技術開発・緊急展開事業」で開発中の「AIを活用した施設野菜(トマト)収穫ロボット技術の開発」は次のようなイメージだ。
初期の収穫ロボットは、カメラ画像の認識に時間がかかり、入り組んだ場所ではロボットのアームの動きが複雑になって収穫できないなどの難があった。プロジェクトでは、AIを活用した果実と障害物(主茎)の認識技術に、収穫アームの制御技術を融合させる。ロボットはAIの支援を得て葉や茎をよけることを学習するので(運動の習熟機能の高度化)、茎が入り組んでいても収穫作業が行えるようになる。
この技術開発では、収穫に最適な時期を迎えたトマトを高速・高精度に認識し、かつ選択して収量の5割以上をロボットで収穫させられると期待されている。また収穫ピーク時の人手作業の代替により労働ピークを削減し、収穫作業の労働コストを3割削減できるとも期待されている。
このようにスマート農業の構築は、単なる農業の技術的な進化ではなく、少子高齢社会における食料安全保障を実現するための取り組みともいえる。その戦略的な多数の取り組みが、いよいよ社会実装を迎えようとしている。次回は、スマート農業を推進し、定着させるための支援策について報告したい。
農林水産技術会議事務局 https://www.affrc.maff.go.jp/