第3章

3

「神の時間か──」

 森嶋はつぶやいた。信じられないと思いながらも受け入れざるを得なかった。だが、日本で誰がこのことを知っていて、どう対応出来るというのだ。

「その時間もすぐに切れる。タイム・オーバーだ。来週には、彼らは再び動き始める。日本政府は対抗策を取ることが出来るのか」

 森嶋を見つめるロバートの顔に笑みが浮かんだ。

 森嶋はすぐには答えることが出来なかった。現政府に有効な対抗策が取れるとは思えない。ユニバーサル・ファンドが来ていることすら、気にかけていないだろう。今はただ地震の対応に追われているだけだ。

「俺は一介の公務員にすぎないんだ。何が出来るというんだ」

「公務員には、国民と国に仕え、護る義務がある。だからパブリック・サーバントと呼ばれる。日本の公務員にその意識はあるのか」

 ロバートは笑みを浮かべたまま、突き放すように言った。

「すでに小競り合いを始めていると言ったな。日本国債の買い付けか」

「様々な方法で、と言ったんだ」

「日本国債の利率は長期にわたってほとんど変わってないし、空売りしようにも将来の大きな変動は見込めない。それに、いざとなれば日銀が介入する。ファンドの連中がいくら日本を財政破綻させようとしても、日銀とやり合って勝ち目はない」

「国債の買い付けに限ればそうだろう。お前が言うように、日本国債の金利は十分低く安定しているし、国債の価格が大きく変動するとも思えない」

 ロバートの顔から笑みは消えている。