森嶋は考え込んだ。ではやはり空売りか。しかし空売りを仕掛けるということは、将来の暴落を見越してのことだ。たとえば、国債が20万円のときに持ってもいない国債の売り注文、つまり空売りをして、国債が暴落し10万円に下がったときに買い注文をすれば、10万円の差額が利益として入る。相場が下がる局面でも利益を見込めるのだ。
しかし、日本国債は何十年もの間、一定の額面を保っている。大きく変動することはない。被害総額17兆円と言われた、先の東日本大震災の時ですら変化はなかった。
「彼らはCDSの買い付けもやっている」
ロバートの言葉に森嶋は頷いた。当然のことだろう。
CDSとは「クレジット・デフォルト・スワップ」の略称だ。簡単に言えば、「倒産保険」である。ある企業が債務を抱えて倒産すれば、当然そこに金を貸していた債権者は損害を受ける。そこでリスクを回避するため、その企業が倒産しても債権原価を保証するのがCDSという金融商品だ。
もしA社が、B社の社債を1億円購入したとする。そのときさらに、C社が販売するB社債のCDSも購入しておく。当然CDSにはスプレッドという、一種の保証料率がついている。もしB社債のCDSスプレッドが1パーセントであれば、A社のCDSを100万円で買うことになる。
その後B社が安泰であれば、CDSの100万円は掛け捨てになる。しかしB社が債務不履行となり、1000万円しか返済出来ないことになった折りには、A社はC社から残りの9000万円を得ることが出来る。
CDSは、世界各国の国債にも応用して販売されている。ちなみに2011年のユーロ危機では、発端となったギリシャ国債のCDSスプレッドが30パーセント以上に跳ね上がった。
「CDSは他の金融商品より動かし易く、レバレッジを使って大量の金をつぎ込めば、CDSの変動を通じて市場を動かすことも出来る」
「しかし、日本国債のCDSなんてあるのか。国債の90パーセントが日本国内で日本人が所有してるんだぞ。日本人の誰が、日本が危ないなんて思う。CDSなんて誰が買うというんだ」