この考えは今でも変わっていない。中国と台湾が多角的な相互交流を続ける過程で、中国社会が民主化した台湾の影響を受けて今までよりも自由で、開放的な政治社会を構築していき、結果的に民主化するのがベスト・プラクティスだと考えてきた。

民主主義は
台湾人民が大切にしてきた価値観

 中国が民主化した上で、台湾がそんな中国との“祖国統一”を自ら望み、双方の意思によって歩み寄った上で“一国一制度”を実現するのが“祖国統一”というアジェンダにおける最良のシナリオであるとも考えてきた。これからもそう思い続けるであろう。

 しかしながら、前述した国家主席任期撤廃、「党がすべてを領導する」という憲法規約、あらゆる分野における上からの締め付け強化、議論どころか提起すらされず、市民社会でもそれが許されない政治体制改革…習近平政権が成立して以来の現実、および今回の習近平談話を眺めながら、筆者がこれまで抱いてきた考えや思いは“空想的”といえるほどに現実味を帯びないと痛感させられた。

 習近平談話、そして習近平政権には、台湾が同じ“中国人”として史上初めて実現した自由民主主義制度を敬う気持ちや姿勢が全くない。そして、今回の習近平談話に台湾当局や人民が猛烈に反発し、台湾が《台湾同胞に告げる書》発表から40年がたった今でも中国との統一を望まない最も根幹的な理由が中国自身の政治体制にあるという基本的背景に対する自覚や反省も全くない。自らが政治体制改革を主体的に推し進める謙虚な姿を台湾側に見せずに(それどころかあからさまに後退している)、「民族大業」(習近平)の観点から“平和的統一、一国二制度”を呼びかけても2300万人の台湾人の心に響くわけがない。

「民主主義は台湾人民が大切にしてきた価値観であり生活方式である。我々は中国が勇敢に民主主義への歩みを踏み出すことを促したい。そうすることによって、初めて台湾人の考え方や堅持を真に理解できることであろう」

 蔡英文は習近平談話への“反論”の最終部分をこう締めくくった。

(国際コラムニスト 加藤嘉一)