上海の高級な日本料理は、ここ数年、びっくりするほど値段が高くなっているので、「本物はやはり高いのだ」と彼らは認識している。だから、本場の日本に行って同じような高級日本料理を食べるならば、上海よりももっと食材はいいはずだし、もっと高いはずだろう、と思っている。

 そうした理由から、「日本で値段が安すぎるのは、本物を(私たちには)提供してくれていないからでは?」と思ってしまうのだ。

 確かに、上海で食べる高級料理は、ここ数年、青天井で値段がつり上がっている。

どんな有名店でも
値段が安いと自慢できない

 2018年に上海にオープンした和食『くろぎ(黒木)上海』は地元の富裕層の間で大人気だが、夜のコース料金は日本円に換算して7万~10万円ほどもするという。また、別の高級すし店などでは、1人あたり10万円を超えることもざらにあるそうだ。

 ほかにも、日本料理に限らず、上海では富裕層向けの高級料理店が増えている。そうした料理店の相場から考えて「本場の日本で食べたら、きっと高いんだろう」と想像しているというのだ(本来、上海で食べる高級日本料理は、食材を日本から空輸しているので、日本よりも割高だと感じるのが自然だと思うのだが、なぜか、そういうふうには考えないらしい)。

 むろん、何度も来日している中国人観光客は「日本の飲食店はどこに行ってもクオリティーの割に値段が安い。日本の飲食費はだいたいこれくらいの値段が相場なのだが、それでもサービスがいいし、日本の飲食店では安心して食べられる」と状況をよく理解している人もいるが、日本の事情や日本料理に関して、造詣が深くない人もいる。だからこそ、富裕層から「そんなに低価格でいい料理が提供できるのはおかしいじゃないか!」というとんでもない不満が飛び出してきてしまうというわけだ。

 まさか、そんなふうに思っている人がいるとは驚きだが、その背景には、今の富裕層にとって、値段の高さだけが物事の価値を決める判断基準になってしまっているという側面がある。

 富裕層は海外でよくミシュランの星つきレストランに行くが、それも「世界的なお墨付きがある」という他人による評価からくる安心感と、友人にSNSで「自分はこんなに有名な店(かつ、値段が高い店)に行けるほどの(立派な)人間なんだぞ」と自慢できるからだ。