「イチかバチかの賭け、というところはありましたけど、あのままでは絶対に全国優勝できないと踏みました。チームをぶち壊し、引き締めてから再構築していく過程で、チーム内に化学反応を起こさせたかった。ダラダラとした状態で選手権へ入っていくことが、何よりも怖かったので」

 突然のキャプテン交代に込めた意図を、黒田監督はこう説明する。入学直後からAチームでプレーし、最上級生になってからは「10番」を背負い、キャプテンとしてチームを牽引。卒業後はJ1の北海道コンサドーレ札幌入りする檀崎が、例えようのないショックを受けることは織り込み済みだった。

 それでも心を鬼にして、副キャプテンとして檀崎を支え、リーダーシップと責任感が強く、仲間たちに対して厳しい言葉を浴びせることのできる飯田に大役を託した。黒田監督が続ける。

「選手たちの心を動かすのは危機感ですから。檀崎もショックだったと思いますけど、そんなことを考えている場合ではない。練習時にはキーパーは別メニューになることが多いので、ピッチでは檀崎が引っ張っていかなければいけない。キャプテンマークを誰が巻くか、という細かいことにこだわっているようではダメだし、ここまでチームを牽引してきた檀崎がやるべき仕事も変わらない。それがプロへ行く者が背負う責任だということは、檀崎本人にも言いました」

 指揮官が望んだ化学反応はすぐに起こっている。ミーティングを終えた部屋から黒田監督以下のコーチングスタッフ、そして部員たちが出て行く中で、新キャプテンの飯田が檀崎へ声をかけた。

「少し話があるから、竜孔だけ残ってほしい」

 他に誰もいなくなった部屋で始まった、2人だけの話し合い。キャプテンとして「自分は檀崎のようにプレーで引っ張っていける選手ではないので、みんなの力を貸してほしい」と所信を部員たちへ表明していた飯田が、思いの丈を前キャプテンへ伝えた。

「竜孔が背負っていた重圧は、オレが半分預かる。だから、竜孔はプレーに集中してくれ」

 次の瞬間、檀崎は大粒の涙を流しながら「ありがとう」と言葉を返してきた。すぐに髪を短く刈り、3度目にして最後の全国選手権に臨んだ檀崎の胸中と涙の意味を飯田はこう慮る。

「キャプテン交代に関しては檀崎本人も驚いていたし、思うこともたくさんあったはずですけど、青森山田のキャプテンと『10番』を背負い、なおかつエースストライカーも務めるのは、相当な重圧との戦いでもあったと思う。それを少しでも軽くできればと思い、自分がキャプテンの分だけ預かると言いました。悔し涙であり、重圧が軽くなってホッとした涙でもあると思っています」