『転職の思考法』著者の北野唯我さんと、『組織開発の探究』(中原淳・中村和彦 著/ダイヤモンド社)の著者で、立教大学経営学部教授の中原淳さん。同時期に「組織から脱出する本」と「組織からの脱出を防ぐ!?本(≒組織にまとまりをつくる本)」を出版した二人が、今、日本企業が直面している課題から、これからのキャリアの築き方やマネジメントのあり方、人事と経営陣のあるべき関係性まで語り尽くしました。全3回に分けてお届けします。
最終回は、リーダー育成から若手の離職防止まで、人材マネジメントについて語ります。「意味づけ時代」「経験格差時代」に突入しつつある今、ミレニアム世代に求められる新たなマネジメントとは?

(構成:井上佐保子、撮影:森カズシゲ)

高校時代こそ、実はリーダーシップ開発に適している

北野唯我(以下、北野):リーダー人材の育成は日本企業の多くが課題感を持っているところかと思います。そもそもリーダーシップとはなんでしょう?先生は学生たちに、リーダーシップをどのように説明しているのですか?

中原淳(以下、中原):今、立教大学経営学部では、「全員発揮型リーダーシップ」を掲げ、1年生から全学生に向けたビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)というものを必修授業として、実施しています。チームで企業から与えられたビジネス課題の解決に取り組み、成果とプロセスに対するフィードバックをかけていくことで、リーダーシップを磨く、といったプログラムです。学生たちには「リーダーシップとは、リーダー1人がチームを引っ張っていくような力ではなく、チームメンバー全員が自分の強みを生かしながら、チームに貢献し、チームを動かしていく力のことです」と説明しています。

中原淳(なかはら・じゅん)中原淳(なかはら・じゅん)
立教大学 経営学部 教授(人材開発・組織開発)
立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。著書に、『組織開発の探求』(共著者中村和彦、ダイヤモンド社)『残業学』(光文社新書)、『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長戦略』『アルバイトパート採用育成入門』、『職場学習論』(東京大学出版会)、『経営学習論』(東京大学出版会)など。他共編著多数。

北野:カリスマ型リーダーシップではなく、一人ひとりが力を発揮し、チームに貢献するといったイメージですね。以前、中原さんがどこかに「リーダーシップ開発は40歳になってからでは遅い」といったことをお書きになっていたかと思うのですが、どうしたら若いうちから、リーダーシップを身に着けることができるでしょうか?

中原:大学でリーダーシップ開発をやっていながら矛盾しているかもしれませんが、リーダーシップ開発は高校生のうちからやっておいてほしいですね。いや、高校といわず、なるべく早いなら、早いにこしたことはない。
BLPでは、企業からのビジネス課題に、コンフリクトなどに直面しながらもグループで取り組み、そのことを事後に振り返ったり、各自に対する360型評価をしたりして、自分のリーダーシップのありかたについて深めていく、といった人工的なやり方でリーダーシップ開発を行っています。
ですが、たとえば高校の活動の中には、部活動、合唱コンクール、体育祭、文化祭など、振り返りの機会を与えるなど少し工夫するだけで、リーダーシップ開発につながる活動がいくらでもある。高校の先生方には、こうした行事をぜひリーダーシップ開発の機会と捉え、実践していただけたらと思っています。

北野:なるほど。僕は人を成長させるのはプロジェクトなのではないか?という仮説を持っています。もちろんルーティンワークの中にも多少の成長はあるとは思いますが、やはり人を成長させるのは、高校時代の文化祭や体育祭に近い、プロジェクト的な仕事なのではないかと。なにか目的があって、それに向けて仲間を集めて、どうしようか?と考えて進んでいく。プロジェクトとは、そもそも「会社」というものの始まりの姿でもあります。

北野唯我(きたの・ゆいが)北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、最高戦略責任者。レントヘッド代表取締役。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。著書にベストセラーとなったデビュー作、『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』(ダイヤモンド社)他、1月17日刊行の最新刊『天才を殺す凡人』(日経新聞出版社)。

中原:何人かで取り組むゴールのある「プロジェクト」に、他者からの「フィードバック」、経験を振り返る「リフレクション」、できれば「メンター」のセットが揃えば、全ての活動がリーダーシップ開発になり得ます。北野さんが先ほど「プロジェクト」とおっしゃったのは、専門用語でいえば「発達的挑戦(Developmental Challenge):ひとを伸ばす挑戦」ということになろうかと思います。

北野:今の日本企業は若手がなかなかプロジェクト型の仕事がアサインされません。先ほどおっしゃっていたように高校時代の体育祭や文化祭などの活動=プロジェクトがリーダーシップ開発につながると考えると、今、成長を求めて副業やオンラインサロンなどのプロジェクトに参加する若手が増えていることにも合点がいきます。

中原:私自身、オンラインサロンのことはよくわからないのですが、もしも会社の中で挑戦的な課題が無く、外の世界でそうした課題に取り組める環境があるのだとしたら、ある意味、非常に皮肉な話ですよね。そこは企業がなんとかしなければならないところです。

ミレニアム世代をつなぎとめる
意味づけする力

北野:先日、「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?~経営における『アート』と『サイエンス』」(光文社新書)著者の山口周さん(コーン・フェリー・ヘイグループフェロー)と、「一流の人、二流の人、三流の人をマネジメントする際に、重要なポイントはなにか」についてディスカッションする機会がありました。「一流、二流、三流」という言い方はかなり失礼な言い方ですし、定義も曖昧ですが、思考実験として仮にわかりやすくそうした分け方をするとしたら、という話です。僕は一流の人、優秀な人をひきつけるのは「良質な問い」ではないかと考えています。良質な問いこそ良質な知性を集めるのではと。

中原:「良質な問い」、言い換えれば「解くべき課題」が一番大事、というのは確かですね。人を考えさせ悩ませ、誰かと一緒に解きたいと思う「問い」「課題」であるかどうかが、プロジェクト成功の6~7割を決めるように思いますし、それが成長を左右するというのもその通りだと思います。

北野:ちなみに、大多数を占める二流の人たちに提供できるものはなにか、というと、おそらく「環境と育成」、心理的安全を確保し、挑戦し成長できる環境づくりではないかと。では、三流の人に対してはどうするか。山口さんと議論する中で、実務家としては採用しない、または退出してもらうしかないのではないか、という話になったのですが、これについてはいかがですか?

中原:マジョリティを占める二流というか普通の人たちに対しては、おっしゃる通り育成によって底上げすることが必要です。それは三流の中でも同じで、本当に底に近いような人たちは採用しない方がいいのだと思いますが、人材不足の日本ではそうもいきません。となると、三流でも上の方の人は小さな成功体験を少しずつ積んでもらいながら、底上げしてあげる必要があるのではないでしょうか。甘いと言われるかもしれませんが、真面目に物事にコツコツと取り組むひとが、たとえ、仕事は一流のものとはいえなくても、食べていける社会をつくらなければならない、とわたしは思います。
僕が思うに、一流の人、つまり飛びぬけて優秀な人たちというのは、「良質な問い」つまり、おもしろい仕事を与えれば自分でどんどんやるから、大事なのは「邪魔しない」でやらせることだけではないかと思いますね。ただ、こうした人たちはおもしろくなくなったらすぐに辞めてしまいます。「できる人ほどすぐ辞める」というリスクはありそうです。「できる人材は、ハイメインテナンス(High maintenance)人材=手がかかる人材」でもあるのです。

北野:一流の人に対して「邪魔しない」というのは、おっしゃる通りですね。以前、Google元日本社長の村上憲郎さんに、「天才」のような優秀な人材に対して、どのようなマネジメントをしているかと尋ねたら「管理することはできないので、なにもせず放っておきます。ただ、たまに大きなミス、失敗が起こったら、謝りに行く、それだけだ」とおっしゃっていました。その一方で「できる人ほど辞めてしまう」ということもある気がします。以前、自動車大手の人事の方にお話をうかがった際、幹部候補生を育成する上で一番重要な人事施策は「配置」であるとおっしゃっていました。長期間同じ部署に配置してしまうと飽きてしまうので、それを避けるようにしているとのことでした。

中原:引き留めるためには、単に配置転換するというだけでなく、常にモチベーションの高まるおもしろい仕事を用意してあげる必要がある、ということですよね。だから、ある意味、ハイメンテナンスで、リテンションが難しい人たちという気もします。

北野:しかし、そもそも今の日本の大企業には、優秀な人材を引き留めることができるほどおもしろい仕事が多いとは思えません。どうすればいいのでしょうか?

中原:そこは結局、おもしろくない仕事もおもしろい仕事にする“意味づけ力”が問われるところでしょうね。よくたとえ話で言われますが、一つの石を積むとき、ただ「レンガを積んでいる」と考えるのか、ゴールとなる「教会をつくっている」と考えるのかという話です。“意味づけ力”が弱いと、若手が仕事に意味が見いだせず辞めてしまうことにもつながっていくので、今の時代、重要な力だと思います。

北野:同感です。今、大企業を辞めてスタートアップベンチャーなどで働く「仕事に熱中している」20代の若者たちにインタビューをしているのですが、その中で出てくるのは、まさに「我々、ミレニアム世代は、足りないもののない豊かな社会に育っているからこそ仕事に意義を求めてしまう」といった言葉です。中原さんは、こうした現状をどう思われますか。

中原:私は、現代社会を「されど意味づけ時代」と呼んでいます。上の世代にとってはヴィジョンやミッションなども「たかが意味づけ」であったりする場合も多いのですが、下の世代にとってはモチベ―ションを大きく左右するものとなってきている。つまり「されど意味づけ社会」なのです。仕事の意義やミッションを感じながら仕事をできる環境を整備していくことーすなわち「意味づけ」の重要性は以前よりも増していると思います。
もう一つこの時代の特徴をあげるとすれば、「経験格差時代」であること。今のように将来が見通しにくい、キャリアも見通しにくい時代にあっては、「どんな仕事経験を積んできたか」が将来を決めてしまうところがあります。優秀な人ほど、次につながる「良質な経験」を積もうと能動的に動いている。それが端的に表れているのが大企業を辞めてスタートアップベンチャーに移る若者たちの行動です。大企業で年収1000万稼いでいた若手が年収200万円のスタートアップに転職する、などという行動に、短期的には経済的合理性はありません。まさに「良質な経験」だけを求めて動くわけです。こうした「経験」を能動的に求めてきた人とそうでない人との「経験格差」が広がっているのが今の時代です。実際、私の研究室には、若手の離職に悩む大企業の人事の方々がよく相談にみえますよ。

北野:そうした場合、どのようなアドバイスをされるのですか?

中原:アドバイスをするというよりは一緒に考えます。うーん、うーん、って。数字を見ながら、仮説をつくるんですね。早期離職に関していえば、まずは離職理由についてきちんと把握できていない場合も多いので、それを把握していただいた上で、経営において本当に必要な引き止める人材なのかどうかを見極めます。どうしても引き止めなくてはならない人材なのであれば、どのように人事制度やキャリアを設計していけばいいのかを考える。問題の整理と解決のお手伝いする、という感じでしょうか。

北野:しかし、営業部門などは比較的外に目が向いていて、マーケットに敏感だと思われるのですが、人事部門は内向きになりがちで、若手が辞めても「辞めた方が悪い」などと言う人事も未だ多い気がします。人事部門に若手の離職を人事課題として意識させるためにはどうすればいいでしょうか?

中原:残念ながら、人事がまともに機能していない企業も数多くありますからね。どんどん人が辞めていき、「いよいよまずい」となったら、経営課題と認識されるはずです。そうなれば、人事部門があろうとなかろうと、なんらかの対策を考えるようになるのではないでしょうか。

北野:まさに会社の「求心力」を高めていくわけですね。最後に、今、中原さんの一番のホットトピックはなんですか?

中原:まさに北野さんのご著書に近い分野です。具体的には離職・転職・定着を結びつける研究をパーソル総合研究所さんやパーソルキャリさんと推進していくことになると思います。実は離職と定着に関する研究は経営学研究の中にもありますが、転職行動に関する研究は個人のキャリア研究の分野になってしまうため、両者を結びつける研究がされていないのです。ですが、「働く人」という観点では、「辞めて、転職して、定着する」ということになるわけで、そこを一気通貫する、ということが「次なる挑戦」なのかなと考えています。
わたし自身も今年転職しました。40歳半ばにして、大学を移籍して、いろいろ思ったことがあります。
僕は、研究者というのは、2つのタイプいると思っています。ひとつのタイプは、自分の経験したことや体験をもとに研究を組み立てるタイプと、もうひとつのタイプは、自分と研究を切り離して考えるタイプです。わたしは前者のタイプですね。自分の経験や経験にねざした問題関心から、地に足のついた研究を生み出していきたいです。

北野:それはめちゃくちゃ面白そうですね!本になる日を楽しみにしています。

(終わり)