理不尽か、理不尽でないか
日大アメフト事件前監督が不起訴に
日大アメフト部危険タックル問題で検察庁は、傷害容疑で刑事告訴されていた内田正人前監督(63) と井上奨前コーチ(30)の起訴を見送る方針で、近く捜査結果を東京地検立川支部に送付する見込みと報じられた。これを受け、世間には落胆と疑問、そして大きな不満の声が広がっている。捜査の結果、事前にけがをさせる目的でタックルを指示した事実は認定できなかった、というのが不起訴の理由だ。
結果的に、危険なタックルをした宮川選手の単独犯であり、井上コーチを通じて伝えられた内田監督の意向を拡大解釈した末の「犯行」と認定された形だ。
これに関連して、東京新聞に文芸評論家の斉藤美奈子さんが「理不尽だ」と書き、ジャーナリストの江川詔子さんがYahoo! Japan のコラムで『悪質タックル「嫌疑なし」は「理不尽」にあらず』と、こうした論調に警鐘を鳴らしている。気分としては、斉藤美奈子さんの「理不尽だ」に同感する。
果たして、検察庁の判断は「公平で論理的」だと言えるだろうか。スポーツライターの立場で指摘したい。ダイヤモンド・オンラインで戸田一法さんも書いているとおり、『捜査関係者によると、アメフトで「つぶせ」は「強いタックル」の意味で一般的に使われることがあり、明確に「けがさせろ」という指示だったとまで踏み込むことは難しいという』というのは、そんなのわかっている、という話だ。
野球人なら、走者の盗塁を見て捕手に「殺せ!」と叫ぶのが本当に「殺害せよ」との意味でないくらい常識だ。アメフトでも同じ。宮川選手は百も承知だ。
それなのに、あの危険なタックルを実行したのは、「つぶせ」が普段使っている以上の意味を持っていると思い込ませる背景があったことは明らかだ。宮川選手自身も記者会見で述べている。検察庁の論理が正しいとすれば、宮川君が記者会見で勇気を持って語ったことはすべて、自己を守るための狂言ということになる。あるいは宮川選手のひとり相撲ということにされてしまう。
検察庁は、内田前監督の人権を守るために、宮川選手という若い青年の尊厳を踏み潰したことになる。何しろ、記者会見の様子はテレビでも繰り返し報道され、多くの人々は宮川選手が告白した姿に心を打たれている。この気持ちを踏みにじっていることこそ、今回の検察庁の判断に世間が「納得がいかない」理由だと思う。