連日、ワイドショーで叩かれまくっている日大の内田前監督と井上前コーチ。しかし、この問題は、2人の悪者に全責任をおっかぶせれば済むほど簡単な話ではない。日本中の会社には「内田・井上コンビ」にソックリな人物がわんさかいるはず。それはかつて、山本七平も指摘した「日本人の暴力志向」が根底にあるからだ。(ノンフィクションライター 窪田順生)
監督とコーチを連日吊るし上げ
テレビの短絡的報道の危うさ
発生から1ヵ月が経とうとするのに、連日のようにワイドショーやらで報道される、日大悪質タックル問題。「もうこの話はいいよ」「他にもっと大事な問題があるだろ」などと呆れている人も多いのではないだろうか。
ご存じのように、「反則を指示した・していない問題」や、「司会による質問潰し問題」が落ち着いてきたかと思いきや、田中英寿理事長の“他人事”感満載の対応、内田正人前監督がアメフト部OBをボコボコにした「事件」、コーチ陣の暴力によって部員20人が逃亡したことなど、耳を疑うようなスキャンダルが次々と明らかになっている
これは彦摩呂さんの食レポ風に言えば、「不祥事の玉手箱や~」ともいうべき、テレビ的には非常においしい状況。そういう意味では、各局が毎日のように、何かしらの日大ネタをぶっこんでくるのもいたしかないと思うが、その一方で、報道の嵐の中で見受けられる「ある傾向」には、非常に危ういものを感じている。
それは、内田前監督や、井上奨前コーチへの「個人攻撃」だ。
ほとんどの情報番組では、2人の顔をどアップで映し出し、これまでの発言をパネルでまとめ、いかに彼らが嘘をつき、選手を追いつめていたかということを嬉しそうに解説している。そして、コメンテーターや評論家のみなさんが渋い顔をして「ありえません」「許せません」と彼らを叩いている。そんなやりとりを朝から晩まで見せられたら、ほとんどの視聴者は「この人たちが悪いんだな」と受け取ってしまうだろう。
あいつらが悪いのは事実なんだから別にいいだろと思うかもしれないが、これでは「痛快TV スカッとジャパン」のような勧善懲悪ドラマを観て日頃のストレスを発散していることと変わらないので、この問題の本質に迫ることはできない。
むしろ、「パワハラ監督と、子分のコーチをスカッと成敗!」みたいな娯楽にしてしまうと、20歳の若者を、善悪の正常な判断ができないまで追いつめた「真犯人」から、人々の目を背けさせてしまう恐れがあるのだ。