高速道路を降りた時、ふと気がついて森嶋はポケットの携帯電話の電源を入れた。その途端、鳴り始めた。

〈大丈夫? 風邪なんだって〉

 優美子の声が飛び込んできた。

「少し頭痛がするだけだ」

〈帰りになんか買ってってあげようか〉

「いいよ。寝てたら治る」

 森嶋は一方的に携帯電話を切った。彼女の性格から、もう電話はしてこないだろう。

「あの女からか」

「どの女だ」

「お前の周りには、いつも複数の女の影がちらついてる」

 ロバートが笑いを含んだ声で言った。

「それでいて、進展する気配がない」

「お前ほどじゃない」

 ホテルの前で森嶋はロバートと別れた。

 ホテルに着く直前に、ロバートに電話がかかって来たのだ。

 車がロータリーに停まると、携帯電話を耳に当てたまま、手で先に降りてくれと合図をした。

「悪いが昼食は中止だ。今日中に中国に発たなければならなくなった。その準備をしなきゃいけない。今度会った時、ごちそうするよ」

 ロバートは森嶋の肩を抱きながら言うと、返事も聞かずにホテルの中に入っていった。