第3章
6
帰りの車の中で森嶋は気が重かった。
2段階の降格でも世界では大きな波紋を呼ぶに違いない。投機ファンドは、この機会を見逃さないだろう。それが一気に3段階ともなれば、為替にも株価にも大きな影響を与える。そして、国債にも影響が及ぶかも知れない。
「有益な時間だったか」
黙り込んでいる森嶋にロバートが話しかけてくる。
「相手の意図は分かったが、我々の言い分を聞いて、意思を変える気はないらしい」
「彼を説得するために会わせたんじゃない。お前に紹介しておきたかったんだ。いずれ必ずまた会うことになる。どんな時にも裏口は開けておけということだ」
森嶋にはロバートの言葉の意味がはかりかねた。ただ、日本の一官僚としても、この出会いは意義があるように思えた。いや、そうしなければならない。さもなければこの国は──。
「感謝してるよ」
森嶋はぽつりと言った。
ふと眼を北に移すと、陽を浴びてそびえる富士山の姿が目に入った。右手には冬の光に輝く太平洋が広がっている。不思議な感動が森嶋の心に湧き上がってきた。この美しい国を何としても護らなければならない、と強く思った。
「これからどうする」
「大使館に行って電話をしなければならない。国務長官にね。その前に少し遅いが、昼飯を食っていこう。あのホテルの朝食はうまかった。付き合うだろう」
ロバートらしい笑みを見せたが、どこか疲れを溜めたような顔だ。