大会前からか大会中か、2人の間で、決定的な亀裂を生むような出来事があったのかもしれない。メディアはこれから、2人の間に起こった不協和音を詳しく伝えるかもしれない。すでに、全米オープンに勝ったころから、すきま風が吹き始めていたとの記事もネット上で見ることができる。だが、「それが契約解消の本質でない」ことも理解すべきだと私は思う。

大坂選手を“子ども”から“大人”へ
バインコーチは「最優秀コーチ」に選出

 テニス界では、「プロテニス選手は、コーチを変えながら成長するものだ」という認識がある。自分の成長やランキングの上昇に応じて、その時その時、最も相応しい人材をコーチに迎える。1人のコーチと長く寄り添うことが美徳ではない。

 このタイミングでコーチとの契約を解消したことに首を傾げる人も多いが、大坂選手がその座を奪うまで世界ランキング1位にいたシモナ・ハレプ選手も、前コーチとの契約を終え、つい数日前に新しいコーチとの契約を発 表したばかりだ。私は「よくぞ決断した」と拍手を送りたい気持ちだし、こういう展開になるのも「大坂なおみ選手が強運を持っているから」とも感じる。

 日本人のこれまでの経験や心情から、別れを否定的、悲観的に捉える傾向が強いが、今回の契約解消は「サーシャ学校」からの卒業であり、「1年ちょっとで飛び級しちゃった」と理解するのがふさわしいと思う。確かに、解消に至る過程で、何か心情的な諍いもあったかもしれない。だが、そうした諍いは、解約解消という行動を起こすスイッチではあっても、本質的な要因ではないだろう。つまり大坂選手にとっては「必然」だったと思う。

 1年前、パリバ・オープンで優勝したときの大坂なおみ選手は、試合中に「もう帰りたい」と駄々をこねる“子ども”だった。これをなだめ、粘り強く自信を思い出させ、戦いの現場に再び送り出す保育士さんのような役割をバインコーチは見事にやってのけた。コートにひざをつき、“下から目線”で選手に語りかける姿は新鮮で衝撃的だった。ちょうどパワハラ問題の告発で日本のコーチと選手の関係が見直されている時期と重なり、バインコーチのスタイルは明快な指針にもなった。