「お嬢さん、かわいそうでしたね。お母様もさぞご心配でしょう。明日、あさって学校はお休みなので、次の月曜日から3日間、私服警官を電車に同乗させ、痴漢を現行犯逮捕したいと思います。

 ただ1つ、お願いがあります。痴漢は逮捕され、有罪になって服役したとしても、すぐに出てきてしまいます。その場合、逆恨みされて、危害を加えられないとは限りません。危険なので、卒業までの数ヵ月、通学のコースを変えていただけませんか。だいたい10分ぐらい余計にかかる程度なんで、いかがでしょう」

 加代子さんは娘の顔を見た。娘は硬い表情でうなずいた。

私服警官にびびった?
痴漢は2度と現れなかった

 土日はあっという間に過ぎ、「痴漢逮捕大作戦」が決行された。加代子さんは連日、犯人逮捕の報せを待っていたが、結局、痴漢は現れなかった。

 3日目の午前中、警察から作戦打ち切りの連絡を受け、加代子さんは暗澹たる気持ちで、娘が学校から帰宅するのを待った。

(こうなったら、今度は私が付いて行って、守ってあげるしかないわね)

 決意を固め、鼻息を荒くして待っていたが、娘は意外にも明るい顔で言った。

「痴漢はもう現れないかもしれないよ。だってね、私服警官の人たち、どう見ても一般人じゃないんだもの。目つきは鋭いし、大きくてたくましいし。あれじゃ怖くて、近づけないんじゃないかな」

 そうなんだろうか。そうあってほしい。

 加代子さんは心配だったが、娘の言葉通り、痴漢は2度と現れなかった。なんだか悔しい気もしたが、逆恨みされずに済んで、通学コースも変えなくて済んだのだから、最善の結果と思うべきだろう。

女性専用車両で仁王立ち
威嚇する男性にうんざり

 胸をなでおろしたものの、不安が完全になくなったわけではない。

 娘はそれ以来、電車に乗る際は常に表情が硬い。「黒っぽいジャージ姿のおじさんがいると具合が悪くなる。そばに来られると過換気になって、倒れそう」という。軽いPTSD(心的外傷後ストレス障害)かもしれない。

 不憫(ふびん)でたまらないが、かといって、この世から男性を消し去るわけにもいかない。