胸を痛める加代子さんを、さらに残念な思いにさせる出来事がある。

「女性専用車両は、男性差別だ」と息巻く、男性たちの存在だ。

 痴漢に遭ったJRの路線には女性専用車両はないが、普段乗る私鉄にはあり、娘は利用している。そこに乗っているときだけは安心できる「救いの時間」なのだが、時折、ずかずかと車内に乗り込み、「文句があるなら言ってみろ。俺は断固戦うぜ」的なオーラをガンガン出して、周囲をにらみつける男性たちがいる。

「男性だって、弱い男性はいる。混んだ電車で、女性だけが守られるのはずるい」

「俺は絶対に痴漢なんかしない。それなのに、排除するなんて無礼だ」

「そもそも電車が混み過ぎるから痴漢も出る。女性専用車両をつくる前に、混雑を何とかしろ」

「運賃を支払っているんだから、どの車両に乗ろうが俺の勝手。鉄道会社には、俺を別の車両に移らせる権利はないんだ。だから俺は女性専用車両に乗ってやる」

 などなどの主張らしいが、いかがなものか。

 たまに、身体の不自由な奥さんや子どもを介助する男性が、女性専用車両に乗っていることがあるが、そういうのは別。周囲の女性だって、その辺の事情は察することができる。

 いい年をして、“戦うべき相手”が誰なのかも分からないとは情けない。抗議するなら、鉄道会社にするべきだ。

 なんなら、痴漢被害をなくすために、立ち上がってみてはどうか。どうせ立ち上がりはしないだろう。戦うのは、自分より弱そうな相手限定の輩(やから)だ。痴漢に心を傷つけられ、おびえる娘を怖がらせることの何が正義なのか。

 女性専用車両の真ん中で仁王立ちになり、戸惑う女性たちを威嚇する男性を見ると、加代子さんはうんざりせずにはいられない。

 かといって、こればかりは、夫の浩明さん(仮名・45歳)に訴えてもどうにもなりそうにない。

(医療ジャーナリスト 木原洋美)