事例 5 技術伝承

友好的M&Aで招聘
プロ経営者の営業改革
【天竜精機】

 時計の針を巻き戻すこと3年前。就任したばかりの小野賢一・天竜精機社長が、縁もゆかりもない長野県駒ケ根市に降り立った。

 小野社長は、日立製作所グループの中核会社で営業本部長を務めていた人物。大企業で培ったマネジメント能力を買われて、「プロ経営者」として招聘されたのだ。

 きっかけは、天竜精機の事業承継である。前社長の3代目オーナーは当時まだ50代。事業承継を考えるタイミングとしては早過ぎるようにも思えるが、後継者不在や事業停滞といった悩みを抱えていた。そして、オーナーが選んだ手段が「友好的なM&A」という会社の残し方だった。

 買い手として名乗りを上げたのが、愛知県のセレンディップ・コンサルティング。セレンディップが、中小製造業の再建人として小野社長に白羽の矢を立てたのだ。

アイフォンに欠かせないコネクタを世界最速で造れる自動化機械を製造。プロ経営者の招聘で復活した

 天竜精機は、世界最速でコネクタ(接続部分の部品)を量産できる自動化機械などを製造している。このコネクタはアイフォンなどスマートフォンに多数搭載されている。日本のものづくりの現場を支えている、知る人ぞ知るニッチ企業なのだ。取引先には、パナソニック、ソニー、オムロン、日本航空電子工業といった大手メーカーがずらりと顔をそろえる。

 それでも、最初から順風満帆だったわけではない。小野社長が就任した当初は、「営業らしい営業をしてこなかった」(髙村徳康・セレンディップ会長)ため、顧客から契約を切られる寸前の取引もあったという。

 せっかく他社にはない良い技術を持っているのに、営業活動がおろそかになっていた現実は、大手企業の営業トップを務めた小野社長の目には奇異に映ったに違いない。取引先へトップセールスをしたり、コンサルティング営業を取り入れたりと、ビジネスの基本から改革していった。プロ経営者の効果はテキメンだった。今後、市場拡大が望める車載電池分野へも果敢に参入している。

 髙村会長は、「セレンディップは100年事業を継続できる会社にしか投資しない。その姿勢が、イグジットありきのファンドとは根本的に違うところ」と言い切る。

 日本の製造業の競争力は、中小企業にあるともいわれる。天竜精機の復活は、中小製造業の技術が伝承されてゆく「新しいモデル」を示しているともいえそうだ。