「テレビCMまで流して積極的に取り組んでいる」。事業承継の旗振り役である中小企業庁の幹部がそう称するのは、長野県の地方銀行である八十二銀行だ。

長寿県の長野県に本店を置く八十二銀行は事業承継支援に15年以上前から注力している

 取り組みの発端は15年以上前にさかのぼる。2002年、第三者への自社売却による事業承継を想定したM&A(合併・買収)支援の専門チーム発足に向けて人材を募集。旧UFJ銀行(現三菱東京UFJ銀行)のM&A担当者を中途採用し、新組織を立ち上げた。

 さらに、07年に親族内承継を支援する事業承継チームを発足し、16年に2チームを統合。現在は7人体制で支援に当たる。

 ただ、「その人数で広い長野県の全域を網羅するのは無理があり、現場担当者と支店長の底上げが重要」(同行法人部コンサルティング営業グループ)だ。そこで八十二銀行は行員469人が「事業承継・M&Aエキスパート」資格を取得。その多くは法人営業担当者で、担当者全体の約8割を占める。

「法人担当者は、今や事業承継の話ができないと仕事ができないといっても過言ではない」(同行関係者)。そのため、行員が必要性を感じて自発的に取得し、実務に生かしているという。

 八十二銀行が直面する状況は日本全国の地方の象徴といえる。図は、全国の地銀への取材を基に事業承継に関する「地方のリアル」をまとめたものだが、経営者の子供が都心にいてUターンを望めない、経営者の高齢化が顕著、情報がなく相談相手もいないといった実態が浮き彫りとなっている。

 また、地方によっては「地元企業に県外資本を入れてはいけないという風潮がある」(中部地方の地銀関係者)地域もある。「隣県の銀行では、地元企業の売却先に他県の企業を紹介する場合、頭取決裁になると聞いた」(東北地方の地銀関係者)というほど、大ごとになる地域もあるのだ。

 そうした事情が重なった結果、地方は廃業リスクの“火薬庫”の様相を呈している。

 前出の八十二銀行の地元、長野県は長寿県として知られる。厚生労働省の「都道府県別生命表」では、15年発表の直近の結果で女性の平均寿命は2回連続の1位(87.67歳)。男性は2位(81.75歳)だったものの、10年発表の前回結果までは3回連続1位だった。