マザーズへの上場は、スタートアップの成長をより加速するための重要な通過点ですが、流通株式が少なく流動性が限られた状態に陥ってしまうと、市場の機能を十分に活用することができません。どうしてこうした状況が生じるのか? マザーズの3つの特徴点を挙げながら、未上場スタートアップ、新興上場企業に対する経営支援事業、並びに産業金融事業を行うシニフィアンの共同代表3人が語り合います。
マザーズが抱える3つの課題
朝倉祐介(以下、朝倉):前回は2018年のマザーズIPO(株式公開)の状況を振り返りつつ、発行体側の視点から、マザーズ上場を活用するうえでのポイントなどについて考えました。今回は制度の観点から、マザーズのあり方について、考えてみましょう。
まず、現状のマザーズが抱える3つの課題、あるいは特色に即して考えてみたいと思います。1点目は個人投資家主体の市場であるということ。2点目は流動性が限定的であるということ。3点目は退出の仕組みが整っていないことです。
小林賢治(以下、小林):個人投資家主体の市場という点について象徴的な事例は、メルカリの株主総会における個人株主からの突っ込みです。会社側としては上場時に、どういう投資をして、どのくらい赤字になるという説明はしていたわけですが、株主総会では、いつ黒字化するのかという厳しい突っ込みがありました。会社としては既に説明しているのに、という歯がゆさがあったと思います。
一般的に個人投資家の場合、株式の保有期間が短く、短期での成果を求めがちです。結果として、企業が黒字化するまでの猶予が、いわゆるロングオンリーの機関投資家(買いポジションを維持する機関投資家。長期目線の投資を行うファンドが多い)などと比べると短くなりがちで、個人投資家が主体となっている場合、「次の四半期では黒字化するのか」という質問が出てきやすくなるわけです。結果的に四半期単位での(売上や利益を改善しろという)PL(損益計算書)圧力があがるのではないかという気がします。
朝倉:(短期的な売上や利益の向上ばかりを追い求める)「PL脳」の問題ですね。
村上誠典(以下、村上):メルカリに関しては、IPO時点で、海外の投資家にも株式を販売していたということで、機関投資家の基盤作りにかなり取り組んでいました。会社側としても北米で赤字が出ることはしっかりと説明していたにもかかわらず、短期的な視野の意見があれだけ多く出たということは象徴的だと思います。
朝倉:北米での先行投資が続くことは、上場時点で誰もがわかっていたことですからね。
テクニカルな上場により流動性がハックされる
村上:2点目の流動性についてですが、経営者にとって、株式の流動性は事業自体とはまったく関係ないことであり、IPO時に初めて意識することです。
マザーズの場合、IPOの形式基準について、定量的に求められる条件が3点あります。まず、時価総額が10億円以上であること。2点目が、流通株式時価総額が5億円以上であること。この2つの条件を合わせて考えると、時価総額が最低条件である10億円の会社の場合、5億円に相当する50%分の株式が売買可能な流通株式でなくてはいけないのかと思いがちなのですが、実はここにトリッキーな抜け穴があります。10%未満の株主は「流通株式」とみなされるのです。
小林:言い換えると10%以上の保有は「固定株」とみなされるわけですね。ところが、8%や9%の保有であれば流通と見なされるということになります。
村上:たとえば、特定の個人が8%や9%分の株式を保有している場合は、流通株式とカウントすることができます。したがって、時価総額が10億円であっても、こうした個人の持ち分が多ければ、5億円分の流通株式を満たすこともできます。流通株式の基準をハックできるということですね。
朝倉:エンジェル出資を多く受けている会社だと4〜5%程度分の株式を個人が保有しているケースも珍しくありません。あまりラウンドを重ねていない会社だと、個人が多くのポーションを持ったまま上場ということもあるでしょうね。
小林:その結果、流通株式の条件は満たしているけれど、保有者が売らないために実質的には流通していないということも起こるわけです。