流動性が低いことによるリスク

村上:3つ目の条件が、流通株式の比率が25%以上であること。
 以上に挙げた3つの基準を満たす必要があるのですが、最小規模で上場しようと思えば、時価総額10億円でもできる。このとき、流通株式時価総額は5億円をクリアせねばなりませんが、先ほどの特定株式を抜くテクニックを使えばこの基準を下げることができ、実質的には流通株式比率25%という基準だけが効くことになる。つまり、2.5億円分の流通株式でもIPOの定量的な基準は満たせてしまうわけです。非常に流動性が低い状態で上場できるということですね。

小林:時価総額が約100億円の会社のトレーディングボリュームを見ると、発行株式数に対して0.001%(約10万円)みたいな日もあります。つまり、全然動いていないわけです。こうなると機関投資家も怖くて入れません。何か大きなイベントがあったときに、売り抜けるだけのトレーディングボリュームがあるのは重要なポイントだと思います。ただ、それを全く満たしていない上場企業が結構あるということですよね。

村上:そうですね。投資家はマザーズではリスクマネーを投じるという側面がありますが、この場合のリスクには2種類あります。まずは事業リスクです。その事業が成功するかどうか、赤字が黒字化するかどうかについてです。ここは一般的には、個人の方よりもプロの投資家のほうが目利き力があるところです。
 もう一つのリスクは、前回に議論したような市場性のリスクです。流動性がなさすぎると売却したくても売却できません。機関投資家はこの2つのバランスをセットで見てくるということになります。

 発行体の経営者やIR担当者が、事業リスクを一生懸命に説明しているにもかかわらず、一向に投資が入ってこないという場合、往々にして企業側が自社の市場性リスクを無視しているケースがあります。

小林:なるほど。流動性をどうやって上げるかについては、端的には、創業者など数%保有している固定株主が徐々にマーケットに売るということなんでしょうね。
とはいえ、上場した後にちょっとずつ売るというのは、インサイダーでもあるので難しいところですよね。

朝倉:経営側が自社の株式を売れるタイミングは、実務的には相当限られていますからね。

小林:であれば、IPO時点にまとまった量をしっかり場に出すということが実は必要なことなんじゃないでしょうか。

村上:そうですね。IPO時に発行体側が特に意識すべきことが2つあると思います。一つは、自社のエクイティストーリーや、事業性のリスクをちゃんと説明するということ。もう一つは、小林さんが指摘したように、流動性を作ることです。つまり、株を売り出して、場に自社の株式を流通させることですね。流通株式を絞るとテクニカルな上場はしやすいのですが、一方で市場性のリスクをコントロールできなくなってしまいかねません。

朝倉:流動性が限定的になるということは、3点目の退出の仕組みにもつながる話ですね。

小林:日本とアメリカではまた違っていて、日本では業績基準に重きが置かれているのに対し、アメリカは、流通株式比率や時価総額を重視します。要するにマーケット需要を重要視しているわけですね。

朝倉:流動性をどれだけ重視するのかについて、スタンスの違いが表れているということですね。

*本稿は、Voicyの放送を加筆修正しSignifiant Styleに1/14に掲載(編集:中村慎太郎)したものを一部改編しました。