変人扱いされながら
信念の起業

 しかし、賛成はしてくれても、共に開発してくれる医師はいなかった。

 2015年11月、小川さんはたった1人で医療系ベンチャー「AMI株式会社」を起業し、新型聴診器の開発に着手した。社名のAMIは、「Acute Medical Innovation=急速な医療革新を実現する。」に由来する。

AMIが開発中の超聴診器AMIが開発中の超聴診器

 大学院に通いながら非常勤医師のアルバイトで開発費を補い、預金を取り崩し、周囲から変人扱いされるのを歯牙にもかけず、革命的に新しい聴診器である「超聴診器」を作り上げた(超聴診器の正式名は「自動診断アシスト機能付遠隔医療対応聴診器」)。

 超聴診器は、手のひらに収まる電気シェーバー大の軽量級。医師に限らず、保健師や患者自らが扱うことも想定し、胸の中心に、ほんの5~10秒間当てるだけで心電をトリガーにして心音を解析すると同時に可視化し、大動脈弁狭窄症の徴候を自動的に診断できるようにした。

 将来的には、診断できる疾患の数を増やして行く予定でおり、現在、呼吸音の聴診ができる機械の開発も並行して進めている。

「呼吸音の対象は喘息と誤嚥性肺炎です。特に喘息は、呼気と吸気の際に、何ヘルツ以上の音が出るというのが分かれば、かなり正確に診断がつくはずです。やはり呼吸器疾患は多いので、超聴診器と名づけるからには、呼吸器の聴診ができないとだめだと思うんですよね」

 しかも小川さんには、機器の開発だけでは終わらない、さらなるビジョンがあった。それは超聴診器を活用し、遠隔医療を推進することだ。

 かつて、ドクターヘリに搭乗し、離島医療に携わった経験を有する小川さんは、月に2日間しか医者が訪れない島の人たちの健康をどうしたら守ることができるのかという課題を、いつも頭の中に抱いている。そしてその答えは、遠隔医療のなかにあると思っている。

 確信したのは、2016年に発生した、熊本地震の時だった。被災地入りし、ボランティアとして働いた際、夜間、保健師がいても医師不在で診療できない避難所が数多くあったことから、インターネットで医師とつながる遠隔医療の必要性を痛感。