なぜ起業を目指していたわけでない2人が、フィンテック・スタートアップを興すに至ったのか? 自動家計簿サービスなどを展開するマネーフォワード取締役兼Fintech研究所長の瀧俊雄さんと、資産運用のロボアドバイザーサービスを展開するウェルスナビ代表取締役CEOの柴山和久さんが、マネーフォワード設立の秘話や、「どう生きるか」と「どう資産運用をするか」のバランスについて議論します。(構成:大西洋平、撮影:疋田千里)

瀧さんが明かす、マネーフォワードの設立秘話とは?

柴山和久さん(以下、柴山) 瀧さんがマネーフォワードの起業を思い立ったときの問題意識を以前ちらっとうかがって、私がウェルスナビを興した理由と相通じるところがあるようにも感じています。個人のお金が、貯蓄から投資に回っていない点に問題を感じられたのがきっかけと伺っていますが、そのあたりの経緯をあらためて伺えますか。

瀧 俊雄(たき・としお)
株式会社マネーフォワード取締役 兼 Fintech研究所長
1981年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスの企画部門を経て、2012年よりマネーフォワードの設立に参画。

瀧俊雄さん(以下、瀧) 野村證券で研究所に勤務していた頃、僕は個人金融資産の分析をメインに研究していました。当時から「日本の個人金融資産の50数%は現金・預金に集中している」という分析結果を発表し続けていて――つまり、現在に至るまで何十年間も、ほとんど変わっていないわけです。

「貯蓄から投資へ」いかにすればシフトできるのか考えていたのですが、2009〜2011年に米スタンフォード大学へMBA留学した際、現地で面白いサービスの存在を知りました。フィナンシャル・エンジンズというスタートアップで、米国の確定拠出年金(DC)である401(k)プラン向けにロボアドバイザーのサービスを提供していて、ちょうどIPO(株式新規公開)を果たしたのです。僕は「これだ!」と思いました。

柴山 資産運用を自動化したロボアドバイザーは、米国で先行してスタートしましたね。その動きに注目されていたんですね。

 「現金・預金のまま寝かせていたら税制上のメリットを受けられない」など、日本にいるときにいろいろ訴えてきましたが、日本人の預貯金信仰は揺らぎませんでした。だから、ロボアドバイザーで自動化して投資に誘導するしか、「貯蓄から投資へ」を実現する術はないと思ったんです。

ETF(上場投資信託)を用いたラップ(投資一任勘定)口座のサービスを日本で立ち上げ、いずれは対面販売の証券会社も設立するという構想を辻庸介(マネーフォワード代表取締役CEO)に持ちかけたのもその頃です。

柴山 辻さんは東海岸のペンシルバニア大学ウォートン校、瀧さんは西海岸のシリコンバレーにいたわけですよね。そもそも、どうやって出会ったのですか?

 周囲に片っ端から聞いてまわって見つけたんです。

「貯蓄から投資へ」を実現するようなサービスを日本で作りたかったのですが、僕のような研究者は起業しても会社を潰してしまうだろうから、強いリーダーシップを発揮する人物が必要だと思いました。それで、「インターネットと金融に強い人はいない?」と片っ端から聞いて回ったら、「マネックス(証券)から来ている人がいるよ」と教えてくれたのです。2010年の大晦日に初めてメールを送り、それから3ヵ月くらいはスカイプでディスカッションして、実際に会ったのは2011年の4月でしたね。

柴山 最初、辻さんはどういう反応をされたんですか?

 まずは、やんわりと諭されました。「セゾン投信が何年の歳月を費やしてブランドイメージを築き上げたのかを知っていますか? 独立系の運用会社が世で認知されていくのがどれだけ大変なことなのか、わかったうえでの話ですか?」と言われましたね。それでも僕がしつこく食い下がったら、二度、三度は聞く耳を持ってくれたものの、「これだけ言ってもわからないの?」と最後は呆れられました(笑)。

柴山 確かに、当時は、米国で先行事例があったとはいえ日本にロボアドバイザーはありませんでした。独立系の運用会社も苦労していたわけですし、辻さんのおっしゃる点もうなずけます(笑)。

 辻が指摘した通り、僕も理想論に走りすぎていました。ただ、辻の中にも日本の現状に対する問題意識があったようです。そこで、「(預金から投資へと)お金を動かす」という行動の手前にある意思決定に関わるビジネスはないものかとディスカッションを重ねてきました。次第に、「マネーフォワード ME(自動家計簿サービス)」の前身となるサービスが固まっていきました。

柴山 二人の問題意識が折り合った地点で、マネーフォワードが生まれたんですね。

母親のように信頼を寄せてもらえるサービスにしたい

 もう一つ、起業を後押ししてくれたのは、日本で大企業型の人生モデルが崩壊してきたことです。ビジネスモデルの賞味期限もどんどん短期化していますし、自己革新を図るためのキャリア設計も変わってきています。会社が終身雇用を保証してくれるという時代は、1979年という高度成長期の終焉とともに終わったと僕は考えています。

柴山和久(しばやま・かずひさ)
ウェルスナビ株式会社代表取締役CEO
次世代の金融インフラを日本に築きたいという思いから、2015年に起業し現職。2016年、世界水準の資産運用を自動化した「ウェルスナビ」をリリースした。2000年より9年間、日英の財務省で、予算、税制、金融、国際交渉に従事。2010年より5年間、マッキンゼーにおいて主に日米の金融プロジェクトに従事し、ウォール街に本拠を置く資産規模10兆円の機関投資家を1年半サポートした。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。

柴山 そこは本当に同感です。特に冷戦後に経済のグローバル化が進み、終身雇用を中核とする日本型経営が立ち行かなくなりました。しかし、そのことが広く認識されるのには時間がかかりました。一世代以上に渡る終身雇用の成功体験があまりにも強烈だったからです。

 日本では、大企業型の人生モデルをよしとする風潮はなかなか変わらなかった。自分で意思決定しなくても不自由しなかった世代が、その経験をもとに80年代以降も子ども世代にアドバイスを行ってきたからです。

大企業に依存しない人生モデルがきちんと提示されていない中で、お金だけ「自己責任で『貯蓄』から『投資』へ!」といくら呼びかけたところで、マインドセットはなかなか変わらないはずです。だから、かつての大企業みたいな安心感を与えられる金融サービスを提供したいと考えました。幼児が母親に全幅の信頼を寄せるように、「ここにお金に関するあらゆるデータを預けておけば大丈夫だ」とお客様から思われるようになりたい。それを軸としたうえで、近似したサービスを付随させていくことが資産運用におけるフィンテックの役割だと僕は考えています。

柴山 瀧さんが留学していた頃(2009~2011年)の日本では、まだETF(上場投資信託)がさほど普及していませんでした。資産配分の決定や資産の管理などを一括で行う「ラップ」のようなサービスも、大手証券など一部での取り扱いにとどまっていました。にもかかわらず、そういったソリューションを用いようと考えたのはなぜですか?

 2004年に野村證券に入社して以来、7年間にわたって米国の証券市場の調査を続けてきて、ある潮流の変化に気づいたことが理由の一つです。米国では2002年頃を境に、証券会社の稼ぎ方が変わっていきました。具体的には、利益の軸足が「取引手数料」ではなく「預かり資産残高に応じた手数料」へと移っていったんです。

柴山 ビジネスモデルが変わってきていたんですね。取引ごとに手数料をいただくのではなく、預かり資産の残高に対して手数料をいただく。ロボアドバイザーもそうですが、後者はお客様の預かり資産の増減と、証券会社の利益の増減が連動します。お客様と証券会社が同じ方向を向くことになります。

 そうですね。ビジネスモデルの変化とともに、米国の証券会社が取り扱う金融商品も変わっていきました。その中で最も大衆的なサービスと位置づけられていたのがETF(上場投資信託)によるロボアドバイザーでした。米国では税制上のメリットがありましたし、小口から買うこともできます。世代や個々の事情を踏まえたストラテジック・アセット・アロケーション(戦略的資産配分)という観点からも、金融資産が3000万円以下という一般の層にとって、ETFのロボアドバイザーが最適解であると思いました。

若いうちは、自分自身が資源であることに目を向けよ

柴山 若いうちはリスクの高い株式のウエートを高く、年齢を重ねるにつれてリスクの低い債券へのシフトを進めていく、といった配分調整も、ロボアドバイザーなら容易に行えますからね。

 そうなんです。僕はジョン・キャンベル教授(ハーバード大学)のヒューマン・キャピタル論に、強い感銘を受けていました。キャンベル教授は「自身の将来所得を債券に近いアセットクラス」、と捉えていますが、その考え方を応用すれば「若い人は資産運用よりも、自分の体が資源であることに目を向けるべきだ」と考えられるわけです。つまり、高いモチベーションで長く働き続けられることが最も重要で、「75歳まで働きたい」と思える仕事に就いているかどうかに金融資産のあり方も左右されていくということです。公的年金などへの期待値が下がっている状況下では、なおさらです。

さらに言えば、野村時代に郵便局が取り扱う投資信託の調査に関わった際、ターゲットイヤー・ファンドが挙げられたことに気づきを得たことも関係しています。

柴山 定年など目標とする年(ターゲットイヤー)に向けて当初は積極的な運用を行い、次第に安定的な運用へとシフトしていくというファンドですね。

ターゲットイヤー・ファンドに疑問を感じたという瀧さん

 年齢とともに資産配分を変えていくということ自体はいいのですが、2040年に65歳を迎える人のすべてが押しなべて同じ運用を行うという前提を奇妙に感じたのです。終身雇用が約束されている大企業に属している人と、スタートアップで働いている人とでは、明らかに選ぶべきファンドは異なってくるはず。それなのに、郵便局の窓口ではどちらにも同じファンドが提案される、というのはおかしいでしょう。

ちなみに、キャンベル教授の下で研究をされていた方には、「むしろ瀧さんの場合、年齢の増加とともにリスク資産のウエートを増やすべきだ」と提言されました。

柴山 面白いですね。

 スタートアップで働くのは、かなり高いエクイティ・リスクを取っていることを意味するからです。なので、たとえば、ここが僕にとって最後の職場であれば、期待される勤続年数が毎年減るにつれて、所得に含まれるエクイティ・リスクは低下していくことになります。だから、目の前の資産運用では債券を中心としたほうがいいと忠告されたわけです。

柴山 つまり、ヒューマン・キャピタルまで含めて考えると、現状の瀧さんはリスクを取りすぎているので、資産運用では債券を中心とした安定的な運用をすることによってバランスを取るべきだということですね。

 ええ。仮に僕が65歳までマネーフォワードに籍を置くとすれば、それからはフルにリスクを取った運用を始めるのが最適だという話になります。とにかく、人それぞれでライフスタイルが多様化している時代なので、ターゲットイヤー・ファンドではもはや個々のニーズを満たせないということです。

投資も車の運転と同じ。実際にドライブに出ないと始まらない

柴山 日本は世界の中でも最も資産運用が求められている国です。しかし残念ながら投資信託の純資産残高は横ばいです。いったいなぜだと思いますか?

 米国でも個人が株式に投資するカルチャーができたのは、確定拠出年金(DC)へのシフトが進んだ70年代以降のことです。

S&L破たんに始まった金融危機の影響を指摘する柴山さん

柴山 インフレが進んだこともありますし、80年代にはS&L(貯蓄貸付組合)の破たんに端を発する金融危機が起きたことも影響していますね。

 そうですね。日本人はそういった大きな階段の手前で踏みとどまっている気がします。以前、投資のイベントで、「すでに4回参加して話をうかがいましたが、私に投資はまだ早すぎる気がします」と深刻な顔で相談されたことがあります。

それを聞いて、投資も車の運転と同じだなと思ったのです。知識や技能を身につけて免許を手に入れたところで、実際にドライブに出かけて車を無傷で戻せなければ、運転ができるようになったとは言えませんよね。結局、教育だけで乗り越えられるものではありません。

柴山 おっしゃるとおりで、まずは実践することが大切なのだと思います。先ほどのヒューマン・キャピタル論の観点から言えば、日本人は決して投資と相性が悪いわけではありませんよね。たとえば昨2018年の秋からマーケットが乱高下を繰り返し、世界経済のピークアウト観測が強まっています。米国の人たちの多くは即時解雇のリスクを負っていて、給与収入の安定性が著しく低くなります。ただし日本では、正社員であれば容易には解雇されづらい。ヒューマン・キャピタル・リスクがかなり低いと言えるでしょう。つまり日本人は、本来、不景気になって株価が下がった際に、グローバルに見て最も投資余力があるはずです。(後編につづく