理想的な貯蓄率は全収入の25%!? それができない場合の対応策とは? 書籍『元財務官僚が5つの失敗からたどり着いたこれからの投資の思考法』の刊行を記念して、著者・柴山和久さん(ウェルスナビCEO)と風呂内亜矢さん(ファイナンシャルプランナー)の特別対談をお送りします。お金が貯まるようになる秘訣を伺った前編に続いて、この後編では、「ベストでなくベターを取りに行く」お金の管理方法について聞いていきます。(撮影:梅澤香織)

風呂内亜矢(ふろうち・あや)さん
プロフィル/1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP®認定者、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
大手電機メーカー系SIerに勤めていた26歳のとき、貯蓄80万円でマンションを衝動買いしたものの、物件価格以外にも費用がかかることを知り、あわててお金の勉強と貯金を始める。現在は夫婦で4つの物件を保有し、賃料収入を得ている。一方、当初のマンション購入をきっかけにマンションの販売会社に転職。「完済年齢を把握する」「不動産と重複する保険はかけない」など、自身がマンションを購入したときの体験を交えた営業が顧客の共感を集め、年間売上1位の実績を上げる。2013年、ファイナンシャルプランナーとして独立。現在はテレビ、ラジオ、雑誌、新聞などで「お金に関する情報」を精力的に発信している。公式サイト:http://www.furouchi.com/、公式ツイッター:@furouchiaya

風呂内亜矢さん(以下、風呂内) どのぐらい節約すれば、一生分のお金に困らないのか。ここではいくら必要という絶対額ではなくイメージとして、人生の収支を単純化して試算してみましょう。
 大学卒業後の22歳から60歳まで38年間働くとしますね。いま平均寿命が延びていますから、仮に90歳まで生きたら、リタイア後の60歳から90歳まで30年間ある。つまり、38年間稼いで貯めて、30年間はひたすら使うことになって、稼ぐ期間と使う期間がほとんど変わらないわけです。前半の38年間で入ってきたお金を使い切ったら、後半の30年間が立ちゆかなさそうだということが、月々の収支だけ見ているとわかりづらいので、長い目線で見て考えていただくのがいいかなと思います。

柴山和久さん(以下、柴山) たしかに「38年稼いで30年間使う」とすると、ある程度は年金がもらえても、貯蓄だけではつじつまが合わなくなりますね。

風呂内 いくつか対応策はあると思います。第一に、消費を八分目に抑えること。たとえば、後半戦の30年間は、年金が現役時代の収入の50%ぐらいはもらえると仮定しましょう。単純計算すれば、前半の38年間も全収入の75%で生活して、残り25%を後半戦30年のために貯蓄しておくと、平均的に全収入の75%程度の水準でキープできることになります。第二に、年金の支給がさらに後ろ倒しになるかもしれないことを考えると、60歳以降に働く期間を長くすること。そして第三に、それでも埋まらない部分は、運用して増やすことも目指す。どれも想定どおりにいかない可能性がありますから、さまざまな手を少しずつ打っておくことが重要だと思います。

柴山 おっしゃるとおり、現役時代に全収入の25%を貯蓄に回して、働く期間を長くすれば、たぶん預貯金だけでカバーできると思うんですけど、貯蓄に25%も回せる人はほとんどいないんじゃないでしょうか。なんとか頑張って収入の5-10%を貯蓄に回せればいいほう、という感じがします。その5-10%についても、リスクを取りたくないから資産運用はせず預貯金に回す方も多いでしょうし。人間心理として、いいところ取りをしたいけれど、なかなかうまくいかなくて、どうすればいいんだろう、というお悩みがすごく多いことは、私も普段のセミナー参加者の声から感じます。

ベストではなくベターを取りに行く

風呂内 わかります。ベストを取りたい気持ちが強すぎて、ベターもと取れない状態ですよね。収入の25%を貯蓄に回せばいいけど、できないかもしれない。長く働ければいいけど、病気になってできないかもしれない。運用で増やせばいいけど、減るかもしれない……どれも、思い通りにいくとは限りません。だから、自分が抱える危ないポイントを分散することが一番重要ですよね。ひとつに賭けて、想定通りいかなかったら、その時点で詰んでしまいますから。

柴山 人生、何が起こるか分からないですもんね。私も国際結婚して公務員を辞めるとは思いませんでしたし、ましてや起業するとは夢にも思いませんでした。

風呂内 そうですよね。私もよく「一番いいやり方って何ですか」と聞かれるんですけど、人生には変数が多すぎるので、ベストを選んだつもりでも数年後には同じ人にとってもそれがベストでなくなるかもしれない。そう考えると、ベストじゃなくてベターを取りに行く感覚が、お金の管理にはすごく大事な気がします。

柴山和久(しばやま・かずひさ)さん
ウェルスナビ代表取締役CEO
次世代の金融インフラを日本に築きたいという思いから、2015年に起業し現職。2016年、世界水準の資産運用を自動化した「ウェルスナビ」をリリースした。2000年より9年間、日英の財務省で、予算、税制、金融、国際交渉に従事。2010年より5年間、マッキンゼーにおいて主に日米の金融プロジェクトに従事し、ウォール街に本拠を置く資産規模10兆円の機関投資家を1年半サポートした。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。

柴山 そう言ってもらえると、ハードルが下がって少しほっとしますね。
 家計改善が進んで、たとえばこのぐらい資産が貯まってきたら運用したほうがいいですよ、とアドバイスされる水準の目安みたいなものはありますか。私は著書『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』で、アメリカ人の妻の両親が現役時代から、預金は生活費の3-4ヵ月分程度しかもっておらず、月々の収入から生活費や住宅ローンを差し引いた残りをすべて、長年にわたってお任せの資産運用に回していた、という例をご紹介しました。これは、金融資産がほぼ預貯金と保険だけだった、私自身の両親とは正反対です。

風呂内 人それぞれなのが難しいところです。ひとつの基準として、生活費3-6ヵ月分があったら、それ以上は少し運用にトライしてみるのはアリだと思うんです。
 でもそれは安全・安定を志向する人の場合であって、最近はすごく小口からでも運用できる商品・サービスが増えているので、厳密に言えば、貯まってからじゃないと運用できないわけでもありません。たとえば、ロボアドバイザーの資産運用サービスも、百万円単位でなく10万円からできるようになって、すごく身近になりましたよね。投資信託の積み立ても100円からできるとなれば、今日のジュース代を我慢すればできちゃいますから。損をすることへの痛みの感じ方や怖さの感じ方によって、適正な額や適正なタイミング、取り組み方は結構変わりますよね。

柴山 「今日の」ジュースの代わりに、「将来のための」積み立てができる、と。

風呂内 あとは、そもそも一定の預貯金ができたとしても、投資は怖いからやりたくない、と端から思い込んでいる方のほうが多いかもしれません。「投資って、増えたり減ったりするんですよね。じゃあいいです」と、そこで思考が止まってしまうのです。どんな投資の方法があるか、なぜ増えたり減ったりするのか、分散や積立で何をコントロールできるのか、といった投資のイロハをひもとく労力そのものをコストを感じて、「そこを考えなければいけないぐらいなら、貯金します」という結論になってしまう。そこを越えるのに、結構大きな溝があるように感じます。

 かたや運用に興味があったり、すでに運用している人の場合は、100円とか1万円からでもできるんでしょう?と前のめりな方が多い。そういう方でも、1円たりとも損をしたくない、と考えていて、総じて皆さんとも痛みに対する感じ方が強いのは感じますね。

証券口座を開くというハードル

柴山 本当に運用初心者だったら、最初の一歩には何を勧めますか。

風呂内 まずは証券口座を開いて、小口で買える商品をひと通り買ってみるのがいいかなと思います。意外と、証券口座を開くこと自体がハードルになっている方も多いんですよ。マイナンバーカードはどこにいったっけ、とか、言葉もよくわからなくて「特定口座」のほうが一般的なのに「一般口座」って何?一般人向けなの?と勘違いして一般口座を開いてしまった…とかですね。

柴山 そういう制度上のややこしさは、自戒を込めて言うと、霞が関の悪い癖のせいでもありますね……。制度のロジック自体は正しいですが、利用者目線ではない。金融庁主催の講演会で、制度を設計している本人がいざ一利用者として口座を開こうとしてその煩雑さに苦労しているという話を聞いたことがあります。私自身にも同じような経験があるのですが……。ちなみに、風呂内さんは最初に何を買いましたか。

風呂内 私自身は最初、スターバックスコーヒーの株を5万円、郵便貯金で1万5000円だけ投資信託、あとは外貨を5ヵ国ぐらい1万円ずつ買いました。まずは最少単位でやってみて、合うか合わないか試してみるといいと思います。

柴山 その投資の成果はどうでしたか。

風呂内 一応、利益は出たのかな。スターバックス株は値上がりしたときに売ってしまいました。投資信託は持っていたことすら忘れていたところ、郵便局の口座をほとんど使っていないなと思って解約したときに終えました。外貨預金もそのままになっていますね。
 それ以降、私の場合は株が面白いなと思って、興味のある銘柄を売ったり買ったりしながら、常に10銘柄ぐらい保有しています。株の入れ替えを考えるのがしんどいタイミングではETF(上場投資信託)に投入している感じで、株とETFを半々ぐらい保有しています。