個別株に投資する場合、どうしてもよく知られた有名な企業を選びがちです。すると「買いたい」人が多くなり過ぎて需給が崩れて、実力以上に株価が上がってしまいます。しかも、高値掴みした人は、リターンがマイナスになりやすいという統計結果も。運用のロボアドバイザー「ウェルスナビ」CEOの柴山和久さんですら、長年お金の仕事に携わりながらも、過去には知名度に惑わされる罠にはまって損をした経験があるようです。柴山さんの著書『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』より、失敗エピソードとそこからの学びについてご紹介します。

 それまでの株式投資での損失は数万円程度だったのですが、損失を取り戻したい、という気持ちが強くなった私は、より真剣にいくつもの企業を調べ、5社の株式に投資をしました。

 投資銀行、IT企業、製薬企業、それに消費財ブランドのラテン・アメリカ子会社などがあったと思います。いずれも、有名な企業ばかりです。

損を取り戻そうと、有名な企業を選んで追加投資した結果…

 最初こそプラスのリターンだったのですが、みるみるうちに下がっていきました。アメリカの代表的な株価指数であるS&P500が5%くらいしか下がっていないときに、私が選んだ企業の株価は20%も下がり、さすがに青ざめました。

 そんな折、ひょんなことから「長期・積立・分散」の資産運用について知る機会があり、自分の投資方法が根本的に間違っているのではないかと思いました。仕事に忙しくなったこともあり、もっていた株式をすべて売却しました。損失は数十万円に拡大していました。

第5の失敗から学んだこと

 失敗の原因は、名前を聞いたことがある企業ばかりに投資したことです。

 有名企業には、時として個人投資家による投資が集中します。「買いたい」という人が多くなると需給バランスが崩れ、株価が実力以上に上がってしまいます。高値で買った人はその後、リターンがマイナスになってしまいやすいという問題があります。

 私が投資した5社のうちのひとつがグーグル(現在のAlphabet Inc.)でした。ある本を読んで感銘を受け、グーグルの株を買おうと考えたとき、およそ自分だけがグーグルのことをよくわかっていて、高く評価していると思っていました。しかし、グーグル株で成功した個人投資家の多くは、私よりもずっと早い時期にグーグルの将来性を信じ、株を買っていたのです。しかも私は、グーグルの長期的な成長性を信じていながら、短期的な損失に耐えられずに株を売却してしまいました。

 私はグーグルの株価が天井のときに買い、その後、株価が3割近く下がるのを見て怖くなり、底値で売っていました。もしそのタイミングで売らなかったとしても、リーマン・ショックで世界中の株価が暴落したタイミングで売っていたでしょう。しかし仮にグーグル株を売らずに今ももっていたとしたら、10年あまりで資産価値は4倍くらいになっていたはずです。

 振り返ってみると、こうして小さな失敗を重ねたことは幸運でした。失敗がきっかけで、「長期・積立・分散」の資産運用について知ることができたからです。

 あるとき、思い立ってロンドンの書店の資産運用コーナーを訪れました。そこでもっとも目立っていたのが、長期的な分散投資のメリットとノウハウを説明する本でした。なぜ長期投資が大切か、グローバルに分散するとはどういうことか、資産配分をどう考えるか──。緑色の装丁が印象的で、自然と手に取ったこの本が、私の人生を変えることになりました。

 その後、ふと東京の書店で資産運用コーナーに立ち寄ってみると、「長期・積立・分散」について説明する本はほとんどなく、あっても本棚の隅に追いやられていました。

 「長期・積立・分散」の資産運用が、日本ではまったく知られていない。一般の人が世界水準の資産運用をしたいと思ってもその方法を知るすべがない。この問題意識は、私がウェルスナビを創業したり、この本を執筆する原動力にもなりました。

名だたる投資家たちの実績も幸運による、という事実

 さて、ここまでは私自身の失敗とそこから得た教訓を述べてきました。しかし世の中で称賛されている資産運用の多くについても、実は根拠が薄く、いい加減ともいえます。それを知ったのは、ビジネススクールの講義でした。資産運用にフォーカスした授業を受けるとき、私は世の中には知られていない、素晴らしい資産運用について学ぶことができるのかと期待していました。しかし、その期待は完全に裏切られました。

 資産運用の評価のひとつに、ベンチマークとなる指標(たとえば日経平均)と比べる方法があります。重要なのは、リスクとリターンの両方を比較することです。リターンだけを比較するのは無意味です。

 仮にリターンが高いとしても、それが過剰なリスクを取った結果だとしたら、資産運用としてはよくないということになります。仮にリターンがマイナスであったとしても、悪い資産運用だとは限りません。日本株に投資して5%の損失を出していたとしても、同じ期間で日経平均が15%下がっているとしたら、資産運用としては優れていると評価されます。リスクを低く抑えることに成功しているからです。

ビジネススクールでは、資産運用の評価の方法について徹底的にたたき込まれました。その方法は、非常にユニークでした。
業界で大きな成功を収めている資産運用会社の経営者や投資責任者を授業に招き、投資哲学や運用方針について教授が質問します。招かれた人たちは、自分たちの資産運用がなぜ優れているのか、自信に満ちた口調でプレゼンしてくれます。

 次の授業では、運用データを分析し、理論的な検証を行いながら、プレゼンで語られたことを客観的に評価していきます。
結果は驚くべきものでした。リスクとリターンをきちんと精査してみると、「優れている」と手放しで評価できる資産運用は数えるほどしかなかったのです。

 たとえば、リターンは高いものの、ベンチマークに劣っているケース。顧客のお金は増えているものの、資産運用会社の貢献度はマイナスです。
パフォーマンスはよいものの、資産運用方針とずれてしまっているケース。たとえば、よりよい銘柄を選ぶという運用方針なのに、実際には金利の変化が追い風になって高いリターンを得られたのであれば、高成績は偶然の産物だったということになります。

 名だたる投資家や資産運用会社の功績の多くが、いわば幸運によってもたらされていたという事実は私にとって衝撃的でした。この結果を、どう考えればよいのでしょうか。資産運用会社の経営者や投資責任者は、本当に気づいていないのでしょうか。あるいは気づいていても、外に向かって言わないだけなのでしょうか。ひとついえるのは、こうした投資家や資産運用会社の顧客は、再現可能な仕組みではなく、ただの幸運に対して手数料を払っているということです。

 かつてナポレオンが、旗下の将軍を登用するとき、幸運に恵まれているかどうかを基準にしたという逸話もあり、幸運もときに大切なのでしょう。しかしナポレオンの運命からも明らかなように、幸運はいつまでも続くとは限りません。