「あなたにおススメ」と言われると、よく考えずについ、そうかも!と思ってしまうことがありませんか。資産運用でもよくあるシチュエーションです。王道は「長期・積立・分散」による運用ですが、資産運用ロボアドバイザー「ウェルスナビ」CEOの柴山和久さんですら、長年お金の仕事に携わりながらも多くの失敗をしてきて、やはり「おススメ」にまんまと乗って失敗したことがあるそうです。柴山さんの著書『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』より、失敗エピソードとそこからの学びについてご紹介します。

 投資信託をうまく選べずに失敗した私は、今度は株式投資を始めようと考えました。

 きっかけは、イギリスの財務省に出向したことでした。日本の財務省と比べて勤務時間が短く、18時過ぎにはオフィスを出ないと上司から注意されるほどで、時間に余裕がありました。本音をいえば、英語でのコミュニケーション力が十分でなく、イギリス政府の仕事の進め方にも慣れないので仕事を任せてもらえていないのではないか、という鬱屈(うっくつ)した思いもありました。

 あるとき、アメリカの銀行から株式投資の案内が来ました。投資信託だけでなく、株式もオンラインで買えるようになったということでした。銀行のサイトで、「あなたにオススメ」といった表示を見つけクリックしてみると、ふとした拍子に、簡単に株を買うことができました。「オススメ」されたものの、どんな企業なのかよくわからないままでした。

 少し経ってから調べてみると、オンラインで画像データをやり取りする仕組みを開発している企業のようでした。アナリストレポートを読むと、事業の将来性があり、“買い”だと書かれています。夢があり、世界が広がったような感覚になりました。「お金を増やしたい」というよりも、「投資で成功して自信をつけたい」という気持ちでした。

 ところが、この企業の株価はみるみるうちに下がっていきました。結局、大きな損失を出して株を売ることになりました。

第4の失敗から学んだこと

 お気づきかと思いますが、失敗の原因は、よく知らない企業に投資をしてしまったことです。

 その2年後に財務省を辞めて留学したビジネススクールの授業で、私はもう一度この企業に出合うことになります。経営不振に陥って株価が下がったことで、従業員のストック・オプションの価値が下がってモチベーションが低くなり、さらに経営不振が加速する……。負のスパイラルの事例として、この企業が取り上げられていました。状況をまったく知らないまま株式投資をしていたことに、愕然としました。

 今になって思えば、何の知識もなく株式投資をするとは信じられないことです。株式投資で成功している投資家は、相当の手間と時間をかけています。特にプロの投資家は調査をサポートしてくれるスタッフや、分析ツールをそろえ、四六時中、投資のことばかり考えています。個人投資家にも、プロ顔負けに情報収集している人が大勢います。

 株式投資に失敗した数年後、私はマッキンゼーの東京オフィスやニューヨーク・オフィスで、企業や事業を評価するプロジェクトに参画し、事業や企業の価値や将来性を評価する手法を身につけました。金融業界では、これをデューディリジェンス(due diligence、略してDD)と呼びます。

 DDを依頼するのはたいてい、大きなリスクを取って大きなリターンを狙う投資ファンドです。ある企業を買収し、経営権を得ようとするときに、買収候補の事業の将来性を客観的に把握するために、マッキンゼーなどの経営コンサルティング会社に査定を依頼します。DDでは、守秘義務契約を提携したうえで企業の内部情報を入手し、経営陣へのインタビューや、業界の専門家の知見も加えて、売上や利益率など、事業の将来性を評価します。百聞は一見にしかずと、買収候補やその取引先に匿名で視察に行くこともあります。

 時間もお金もかけてDDを行い、数百ページにわたって詳細に分析すると、事業の将来性を一定の精度で予測することができます。私が関わったDDのひとつでは、投資ファンドが買収に成功し、数年後に事業を大きく成長させたうえで売却したケースもありました。おそらく100億円を超える売却益があったはずです。

 いくつものDDから学んだのは、十分な時間と費用をかけて情報を集め、徹底的に分析を行えば、企業の価値や将来性はある程度、合理的に評価できるということです。「アウトサイド・イン(outside-in)」といって、企業の内部情報にアクセスせずに、公開情報の範囲で企業の価値や将来性を測ることもできます。こうした努力を何もせず、片手間に株式投資をするのは、竹槍で戦車と戦うようなものでした。