マイクロソフトに援助を求めるほど、
カネのなかったアップル 

 ジョブズが暫定CEOとなった1997年度のアップルの業績は約10億5000万ドル(当時のレートで約1260億円)の赤字で、売上利益率はマイナス15%と散々で危機的状況に陥っていた。2018年夏には時価総額1兆ドルを突破したアップル株だが、その頃は一株3ドル程度の“ジャンクボンド”に過ぎず、売却したくても手数料の方が高くつくありさまだった。

 世間ではアップル社の身売り話が大きく取りざたされ、隆盛を誇っていたエクセレントカンパニーIBMが買収に乗り出すとか、アラブの王様がアップルを欲しがっているといった記事がシリコンバレーのサンノゼマーキュリー紙を度々飾った。

 そこで、アップルへ奇跡の復帰を遂げ、暫定CEOとなったジョブズが最初に断行した事のひとつが、宿敵のマイクロソフトから資金援助を得ることだった。

 1997年8月のイベント、マックワールドのステージ上でジョブズが「マイクロソフトと提携をする」と発表した時、観客たちは凍り付き、絶句した。ウィンドウズがMacをまねてつくられたことは業界関係者の間では常識中の常識だった。そして、PC業界を牛耳るマイクロソフト社とビル・ゲイツは独裁者ビッグブラザーであり、アップルファンにとっても親の敵同然だったからだ。

 そんな感情論を振り払うように、ジョブズがビル・ゲイツと結んだ条件は、「マイクロソフトがウィンドウズを開発した際に、Macの重要な部分を盗用した」とアップルが起こしていた訴訟は取り下げること。そして、訴訟を取り下げる代わりに、マイクロソフトは1億5000万ドルで議決権なしのアップル株を購入し、少なくとも3年間は売却しない。そして、Mac用のアプリ、ワードとエクセルを開発することだった。

 親の敵のようなマイクロソフトから1億5000万ドルのカネを恵んでもらわなければいけないほどアップル社は資金難に直面していた。それはティム・クックがアップルに入社する1年前のことだった。