昨年末、世界を駆け巡った中国における「世界初のゲノム編集ベビー誕生」のニュース。「ついにSFの世界が現実に」と感じた人も多いでしょう。光と闇を内包する“神の技術”がもたらす人類の未来とは――。『週刊ダイヤモンド』3月30日号の第2特集は、「福音か災厄か 『ゲノム編集産業』の幕開け」。その拡大版として、日本のゲノム編集研究をリードする2人のキーパーソンのインタビューをお届けします。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 野村聖子)

日本ゲノム編集学会会長 広島大学大学院理学研究科 山本卓教授

危険視される一方で過大な期待も
産業応用では日本は周回遅れどころではない

山本卓教授
やまもと・たかし/理学博士。1965年生まれ。1989年広島大学理学部卒業後、同大学理学研究科、熊本大学理学部助手を経て、2002年広島大学大学院理学研究科講師、03年助教授、04年より教授。16年日本ゲノム編集学会会長に就任。17年より広島大学次世代自動車技術共同研究講座併任教授 Photo by Seiko Nomura

――賀建奎氏(中国・南方科技大学副教授、現在は解雇)による「ゲノム編集ベビー誕生」発表の真偽について、どう思われますか。

 あの発表直後、香港で「ヒトゲノム編集会議」が開催されましたが、まさか彼があそこに堂々と出てくるとは思いませんでした。事の大きさを理解していないというか、あの全く悪気のない様子に、これは本当ではないかと。

 もちろん、しかるべき査読を受けた論文やデータが出てくるまでは断言できません。しかし、ヒト受精卵の基礎研究(ゲノム編集の効果を検証したのち、母親の子宮内に戻さず破棄する)の論文がほとんど中国のものであることを踏まえると、今回のことも、さほど驚きはなかったというのが正直なところです。

――この一件以降、日本におけるゲノム編集への意識に変化は感じますか。

 やはり、プラスであれマイナスであれ、生殖医療領域への応用に関心が高まっているのを実感します。まずは、いわゆる“デザイナーベビー”への懸念からゲノム編集それ自体を危ない技術だとする反応ですね。日本産科婦人科学会や、日本卵子学会など生殖医療分野の学会からの招待も増えました。一方で、不妊治療への効果を期待する向きも少なくありません。先日も、広島大学に視察に来られたある女性国会議員の方から「ゲノム編集は不妊治療に有用なのか」と尋ねられました。