親族でも専門職でもない
「市民後見人」という第3の存在

 では、今回の最高裁の決断は適切といえるだろうか。親族後見人への「里帰り」施策について検討してみよう。

 実は、後見人には、親族と専門職のほかに第3のグループがある。「市民後見人」である。後見人の選任には属性や資格の前提はない。家裁に制度利用を申し立てる際に、後見人候補は誰でもいい。

 一般市民が後見人の選任を受ければ「市民後見人」というわけだ。市民後見人は、家族や専門職と違うのだろうか。

「家族は利益相反になる可能性があります」とある市民後見人は話す。被後見人が亡くなれば、家族は遺産相続できる。その前に「少しばかり拝借して、自分の事業に投入しても構わないだろう」と考えてしまうことがある。本人が施設に入所していたり、長期入院中だったりすると、身勝手な行動に走りがちだという。不正と紙一重の状況だ。

 また、専門職の活動は「あくまで仕事の範囲内。それも家庭状況が複雑だと訪問回数が増えるけれど、報酬がそれに比例しない。割の合わない業務となる」(前出の市民後見人)。弁護士の通常活動による報酬とはかけ離れているため、事務所職員が肩代わりすることもある。

 これに対し、前出の市民後見人は自身の活動を振り返り、「認知症の人と会えば、いずれ自分も同じような症状を抱えることが想定される。だから、施設訪問すると食事や入浴、トイレなど日常生活がどのようになされているかを、近い将来の自分のこととして関心を寄せざるを得ない」と、立場の違いを強調する。

 厚労省が最近打ち出している高齢者ケアの施策に「我が事・丸ごと」がある。市民後見人はこの「我が事」の実践者そのものだろう。

 実は、厚労省は老人福祉法第32条を改正し、2012年4月から市町村に後見人の人材育成を努力義務と課し、「市民後見推進事業」の音頭を取り始めた。認知症高齢者の増大を目前にして、法務省管轄だった後見制度に取り組まざるを得なかったようだ。その柱に据えたのが「市民後見」である。

 だが、残念ながら市民後見人はまだ極めて少ない。2018年には、わずか320件に過ぎない。総件数3万6298の0.88%だ。ただこの最高裁の集計では、「その他法人」として1567件を挙げており、この中にNPO法人として法人後見で活動している市民も多いとみられる。「その他法人」を合わせると、1887件で5.2%になる。

 最高裁は「親族重視」への姿勢転換を宣言したが、長期的な視点からは「市民重視」にかじを切ってほしかった。加えて、「財産管理」と並ぶ後見目的の「生活支援」(身上監護)を社会保障に引き寄せて見直してほしかった。後見活動の拠点となる市町村の「中核機関」の設立が遅滞している中、既存の地域包括支援センターへの統合も今後の検討課題になるだろう。

(福祉ジャーナリスト 浅川澄一)