「成年後見制度」が思わぬところから飛び出てきた。

誰に財産を預ける?
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 東京都渋谷区が、同性カップルに結婚関係を認める「パートナーシップ証明書」を発行することになった。事実上の同性婚の容認である。日本で初めてのこと。これまで難しかった賃貸住宅への入居や病院での面会などが改善されそうだ。

 その証明書の発行前にお互いが任意後見契約を交わすことを条件とした。ほとんど知られていない「成年後見」が突然陽の目をみた。成年後見制度そのものがあまり浸透していない中で、その一種である任意後見の登場だ。

 成年後見制度は、高齢者介護の分野では認知症高齢者の社会生活を手助けする重要な民法上の制度として、介護保険導入時に確立された。「介護保険と成年後見は車の両輪」とまで喧伝されたが、残念ながらあまり普及していない。そこへ、若年層の関心事である同性婚と結びついた。これを契機に成年後見制度への理解が深まり、浸透していくことが望まれる。

 その成年後見制度に普通の市民が今、続々と名乗りを上げ、新しい局面が開かれつつある。といっても、革新的なことをすれば必ず既存勢力の「抵抗」が伴うのが日本社会。その内実に分け入ってみる。

物事の判断をサポートする
成年後見人とは

 成年後見制度とは、何らかの理由で物事を判断する能力が十分でない成人をサポートする制度。社会的な契約に関わることが難しい人に代わって代行できる制度である。契約のベースになる文書やその内容の理解が伴わない人が被後見人となる。認知症者や知的・精神的障害者である。後見人は、その人たちに代わって、財産の移動・管理や生活上の欠かせない契約文書を取り交わすことができる。

 逆にいえば、後見人がついていれば認知症者の署名は無効になる。押し売り訪問販売による消費者被害の「事前救済」に威力を発揮できる。

 家族が不在の時に、シロアリ駆除剤や壺、着物などの訪問販売員に認知症高齢者が購入契約書にサインをしてしまい、家族が困惑することが多い。独居老人が必要のない自宅のリフォーム契約を結んでしまうこともある。

 民法では「意思無能力」の状態と見なされれば、契約は無効となるが、認知症の人が現実に認められない場合もある。認知症といってもその程度に大差があり、必ずしも意思能力の欠如と判断し難いからだ。その際に、成年後見人がついていれば契約書は効力を失い、難を逃れることができる。

 成年後見制度は、民法の禁治産・準禁治産制度を廃止し、介護保険の開始時点の2000年4月から導入された。要介護高齢者が介護サービスを利用するには事業者との間で契約を交わさねばならないのが介護保険。だが、認知症などで判断能力が不十分な人は契約当事者になり難い。そこで、成年後見人が本人に代わって、ヘルパー事業者の選択や特別養護老人ホームへの入居の是非などを決めることができる。

 土地や建物、貯預金などの財産管理だけでなく、当事者の全生活を支える。本人が行った不利益な契約の取り消しや代理契約ができる。責任は重い。家族や市区村長の申し立てを受けて、家庭裁判所が後見人を指名する一般的な法定後見と成年後見人を本人が判断できる間にあらかじめ決めておくことができる任意後見がある。将来、認知症になった時に備えて信頼できる人を事前に決め、法的手続きをしておけば憂いがない。

 任意後見は、それほどの信頼関係があるということで、渋谷区は「同性婚」の担保としたわけだ。