例えば女性の場合、美容院でお客様にシャンプーしている時に床の掃除を頼まれると、床の掃除に集中して、シャンプー中のお客様のことは忘れてしまう。仕上がりを鏡に映して確認してもらう際にはおしゃべりし過ぎてあっという間に時間が経ち、周囲から叱責されることがしょっちゅうだった。朝の身支度に時間がかかり過ぎて遅刻するのはいつものこと。しかも忘れ物も多い。

 真面目で気立てもよく、かわいらしい女性だったので、周囲は親切にしてくれたが、本人はストレスをため込み苦悩した。

 実は彼女は、知的障害までは行かないが、IQ70~80の間であまり高くはなく、勉強が苦手だった。いろいろなことを覚えたり、応用したりすることができず、成績はいつも2か3。

 美容院勤めで勉強から解放されるかと思いきや、実際には覚えることも多いし、初対面のお客様に対して臨機応変な対応を求められる、苦手な世界だった。

 そんな仕事のストレスから逃れるように結婚してみたものの、主婦業はさらに究極のアドリブが求められる「職場」。しかも美容院と違って、フォローしてくれる人もいない。洗濯や料理の最中に電話がかかってきたりしたら万事休す。家の中は惨憺(さんたん)たる状況になり、夫婦仲にも隙間風。腰痛はピークに達した。

 踏んだり蹴ったりの状況を聞き終え、北原教授は次のように告げた。

「あなたには発達障害がありますね。障害と言っても、癖みたいなものなんですけど、たくさんのことを同時進行させるのが苦手な障害なんですよ。

 あなたは真面目な人だから、一生懸命こなそうとする。でも難しい。悪気もないし、がんばっているのに、周囲やご主人からは『人の話をちゃんと聞いていないんじゃないか』とか『だらしない』とか非難されてつらいんですね。

 腰痛は、そうした大変さからストレスが原因で起こっています。

 治療するには、発達障害の専門医にかかって障害を克服する。そんなあなたをご主人に理解してもらい、フォローしてもらうなど、周囲の環境を変えることが必要です」

 その後女性は離婚し、実家で両親と暮らしている。腰痛は治ったが、北原教授の気持ちは晴れない。