デジタルは便利だが、書き出して整理することには不向きだ。また、便利であるがゆえに常時仕事とつながってしまい、多くの作業に振り回される。自分がやりたいこと、自分にとって本当に大切なことを考える上では、デジタルの包囲網から少し距離を置く「アナログの避難所」が必要なのだ。今、世界中で大ブームのノート術「バレットジャーナル」は、そうしたデジタル漬けの日々から脱却できるツールとして話題になっている。本連載では、発案者であるライダー・キャロル氏が書き下ろした初の公式ガイド『バレットジャーナル 人生を変えるノート術』の刊行を記念して、著名なバレットジャーナル・ユーザーや専門家たちに寄稿してもらう。今回は、システムエンジニア出身のライターとして文具業界で活躍する松本沙織さんが、バレットジャーナルの実践法と、自分と正しく向き合うためのスケジュール管理術を紹介する。
思考の悪循環から抜け出せた
「書き出して、整理する」シンプルな方法
ライター、編集者
システムエンジニア、教育研修会社のウェブマーケティング職・法人営業職などを経て現職。文具関連の執筆のほか、ITやBtoBビジネス分野での執筆・編集にも携わる。主な執筆協力に『ジブン手帳公式ガイドブック2018』(実務教育出版)、『じぶん流にこだわるとみるみる夢が近づいてくる! 夢を引き寄せる手帳術』(扶桑社ムック)など。 Web:https://saorimatsumoto.themedia.jp/
話は10年以上前にさかのぼる。当時私は新人システムエンジニアとして働いていた。担当するプロジェクトでは、何をやってもミスばかり。イレギュラーな出来事に対応しきれず、納期もなかなか守れない。端的に言って、ダメなシステムエンジニアだった。
あまりに仕事ができないせいで、当時の上司から呼び出しを喰らってしまった。どこをどう切り取っても、自分のせいでプロジェクトがうまく回っていないことは明白だ。一体何から怒られるのだろう?
すると上司は、ホワイトボードに文字や図を書き始めた。プロジェクトのチーム編成や指示命令系統、予定と実績、技術的な課題……などなど。そして私に、いくつかの簡単な質問を投げかける。回答内容もまたホワイトボードに書き加えられる。次々と情報が集積する1枚のホワイトボードを眺めながら、私は次第に自分の脳内がクリアになっていくのを感じた。
一連のやりとりを通して、上司は3つの結論を私に提示した。
●過度に自分を追い詰めなくてよい(このプロジェクトでミスや遅延が発生した原因の多くは、他人・環境・過去にあった)
●自分が今できることに集中すべし(他人・環境・過去は、そう簡単に変えられない)
●思考の悪循環に陥ったら「書き出して、整理する」(そうすれば必ず、解決の糸口は見つかる)
怒られるつもりで臨んだ面談が、思いもよらない展開に。追い詰められて気分が沈むどころか、むしろ逆に爽快ではないか。「書き出して、整理する」だけならば、私にだってすぐできる。書き出し先をホワイトボードからノートに変えればいいだけの話。いつでもどこでも実践できる思考整理法を学んだ。
この面談から現在に至るまで、Webマーケティングや法人営業、そしてライター、編集者とさまざまな職種を経験してきた。どの職種でも「書き出して、整理する」シンプルな方法で大抵どうにかなっている。
デジタルに囲まれた日々から距離を置く
「アナログの避難所」としてのノート
『バレットジャーナル 人生を変えるノート術』著者のライダー・キャロル氏は、さまざまな試行錯誤を経て、日々のあらゆる悩みを1冊のノートで解決するツール「バレットジャーナル」を編み出したという。
ライダー氏が「頭のなかを少しでも整理しようと、ひとつずつ、ささやかな工夫を積み重ねていった」(P15)結果、バレットジャーナルの手法はますます洗練され、今や世界中のユーザーが愛用するツールにまで成長している。
いったいなぜ、これほどまでの人気が続いているのだろう。ひとつの解を導くキーワードとして、ライダー氏が著書で述べている「アナログの避難所」に注目したい。
というのも、私自身が職業柄、油断しているとデジタル漬けになりかねない状況だからである。日程調整も原稿執筆も校正も、その他諸々の業務も、デジタルツールなしではまったく成立しない。そのうえオフタイムでさえも、インターネットやSNSで情報収集してしまう始末である。うっかりしているとあっという間にデジタル漬けの毎日になり、いつの間にやら心身ともにだるくなってしまう。
こうした状況から脱却できる簡単なツールが、「バレットジャーナル」だ。私にとってのバレットジャーナルは、ライダー氏が著書で述べている「本当に重要なことに集中し、自分にとって大切なこととは何かを考えるうえで極めて重要」(P27)な役割を担っている。