世界各国で接種されているワクチンが接種できない「ワクチン後進国」の時代が長く、ワクチン産業も育たずにきた日本で、国内製薬大手の第一三共とワクチン世界最大手であるグラクソ・スミスクラインが手を組んだ。このタイミングでワクチン専業の合弁会社、ジャパンワクチンを設立する真意に迫った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)

第一三共とGSKは3月に日本でワクチン事業を展開する合弁会社、ジャパンワクチンの設立を発表した。新会社は約250人体制で7月から営業を開始する
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「どのワクチンが定期接種に加わりそうですかね」。医師から国のワクチン政策動向について質問を受ける松原理絵さん(32歳)はワクチンを販売する国内製薬大手、第一三共のMR(医薬情報担当者)だ。また、1歳半の娘を持つ1児の母でもある。

 MRは医師に薬の情報を提供するいわば営業マンであり、松原さんはワクチン専門で内科や小児科、産婦人科などを回る。しかしほんの1年前までは周囲の“ママ友”と同様、娘にどのワクチンをいつ接種させるかの判断に迷い、頭を抱えていた。出産前まで外資系製薬会社でMRとして抗がん剤などを担当してきたが、感染症予防ワクチンは関心の外だった。

 公費負担で無料化されている定期接種はジフテリア、百日せき、破傷風、はしか、風疹、結核、ポリオ、日本脳炎の8種類。ワクチンは接種時期が決まっており、生後すぐに接種ラッシュが押し寄せる。国が勧奨する定期接種以外にも希望者が自己負担で受ける任意接種のワクチンがたくさんある。B型肝炎、ヒブ、肺炎球菌、おたふくかぜ、水ぼうそう、子宮頸がん──。任意ワクチンのどれを接種したらいいのか、わからないことだらけだった。

 2011年8月、第一三共がワクチン事業でMRを募集していると知って飛びついた。ワクチンが身近な存在である子育て経験者を数人登用するという試験的な採用枠だった。勤務地は自宅の近隣が割り当てられ、子供が熱を出したときに中抜けもできる柔軟な勤務形態が魅力だったが、何よりユーザーとなってワクチンに強い興味が沸いていた。

 入社して、任意で接種する新規ワクチンの種類がここ数年で増えていることを知った。“任意”といっても、軽い病気のワクチンだからというわけではなかった。その多くは海外では昔から定期接種され、後遺症や死をもたらす病気の重症化を防ぐ重要なワクチンだ。あわてて娘に残りの任意ワクチンを接種させ、ワクチン市場は変化の渦中にあることを実感した。