人民元と円の直接取引が6月1日から開始された。日中間の金融の歴史において、エポックメーキングな出来事といえる。これまではドルを介していたために、人民元と円の決済は米国を経由する必要があった。筆者は6月上旬に上海にいたので、このニュースに関する日中の報道ぶりを比較してみたが、明らかに日本のほうが報道量が多く、将来への期待がにじみ出ている様子があった。

 今回の直接取引開始は、昨年12月25日に日中首脳会談で合意された「金融市場の発展に向けた相互協力の強化」の中の一つのメニューである。「相互協力の強化」の日本側の最大の狙いは、「中国の成長をわが国経済の活力として取り込む」(財務省)ことにある。一方、中国側は、「ドル依存」から脱却すべく人民元の国際化を進めることが金融危機以降の大きなテーマとなっている。

 こうして見ると、現在の日中間の「相互協力の強化」には、「同床異夢」の面があるのだが、現時点では互いに利益があるため、両国の関係は良好である。もし日本が中国によりコアな要求(資本規制の早期緩和など)を行えば摩擦は生じ得るわけだが……。

「中国は人民元の国際化を通じて、通貨の世界覇権を狙っているのではないか?」という観測が聞かれることがある。しかし、中国の金融当局者と議論していると、そういった「野望」は今は全く抱いていないことが感じられる。