再逮捕されたゴーン氏の新たな悪事の証拠は「高級船舶」――。かつてクーデターで日産から追われた塩路天皇事件にますますソックリな展開になってきた。裁判を待つまでもなく、次々に「日産関係者」や「検察関係者」からリークされる「ベタベタの悪事」情報によって、ゴーン氏はすっかり“クロ認定”された格好だ。(ノンフィクションライター 窪田順生)
日産クーデターにつきものの
「高級船舶」スキャンダル
またしても「高級船舶」が登場するのかい、とツッコミを入れた方も多いのではないか。
オマーンルートとサウジルートを駆使した国際マネーロンダリング疑惑で、検察とマスコミからボコボコに叩かれているゴーン氏の「新たな悪事の証拠」がこんな風に報じられているのだ。
《「クルーザーに日産資金」 関係者 示唆メール》(読売新聞2019年4月6日)
「SHACHOU」(社長号)と名付けられたこのイタリア製高級クルーザーを約15億で購入する際、オマーンの販売代理店を通して、日産の資金を充てたというのである。もちろん、ゴーン氏はこの指摘を全否定。「週刊新潮」にも「ルノー関係者」の以下のようなコメントが掲載されている。
「クルーザーは、昨年亡くなったレバノンの弁護士から購入しました。(中略)でも、あくまでもポケットマネーで、マリーナなどの契約も引き継ぐためにクルーザーの所有会社ごと買い取って、キャロル夫人の名義にしたとのことでした」(週刊新潮 2019年2月14日)
もし容疑のままで起訴されれば、どちらの言い分が正しいかは、いずれ法廷で明らかになるはずなのでそれはいいとして、個人的に関心があるのは、冒頭で触れた「高級船舶」だ。
そのあまりの独裁ぶりと、クーデターで追放されるという結末から、何かとゴーン氏と重ねられる塩路一郎氏が激しいバッシングを受けるきっかけとなったのも「高級船舶」だったからである。
1972年から86年まで、日産グループ労組である「自動車労連」の会長を務めた塩路一郎氏は、日産中興の祖・川又克二元社長の「労使協調路線」によって社内の発言力を増し、次第に人事、新車開発、国際戦略という経営にも介入。いつしか社内で「塩路天皇」などと恐れられるほどになっていた。
そんなゴーン氏とキャラが重なる塩路氏が権力の座から引きずり降ろされたきっかけは、空港で待ち構えていた東京地検特捜部に逮捕…ではなく、写真週刊誌だった。
1984年1月、「フォーカス」(新潮社)に、「日産労組『塩路天皇』の道楽―英国進出を脅かす『ヨットの女』」というタイトルで、その豪勢な暮らしぶりと、若い美女とヨット遊びに興じる写真が掲載されたのだ。