21日の決選投票では、投票の締め切りから間もなくして、各メディアが出口調査の結果を伝え始め、ゼレンスキー勝利がほぼ確実と報じた。現地時間の22日早朝には開票率が85%にまで達し、すでにゼレンスキー氏の勝利は確実となり、ゼレンスキー氏が約73%の得票率で約24%のポロシェンコ氏に圧勝したことが伝えられた。ポロシェンコ大統領も、「大統領職から離れます。政治の世界から離れるという意味ではありませんが、ウクライナの人々の意思を受け入れることにします」とツイートし、事実上の敗北宣言を行った。

新大統領ゼレンスキー氏
テレビドラマで大統領を演じてきた異色の経歴

 新大統領となるゼレンスキー氏は41歳。ウクライナ中部の町クルィヴィーイ・リーフでユダヤ系の両親のもとに生まれ、大学教授であった父の仕事の関係で幼少期をモンゴルで過ごした。17歳の時にウクライナ全土で開かれているコメディ大会に初めて参加し、そこからメキメキと頭角を現していく。大学では法学を専攻していたが、卒業後はプロのコメディアンとして活動することを選択。自らがプロデュースしたコメディ集団を率いて、旧ソ連諸国をツアーで回り、コメディアンとしての腕を磨いた。転機となったのは彼が25歳になった2003年。ゼレンスキー氏のコメディ集団はウクライナの大手テレビ局と契約を結び、番組出演や番組制作を行うようになった。

 ゼレンスキー氏はウクライナで喜劇俳優としてのキャリアを着実に積み上げてきたが、2015年からスタートしたテレビドラマ「人民の執事」のヒットによってさらに知名度を高めることに成功している。すでに3シーズンにわたって放送されたドラマの中で、ゼレンスキー氏は汚職や不正を嫌う30代の教師を演じ、ソーシャルメディアの力によって主人公が教師から大統領に転身し、ウクライナに存在する様々な問題を解決していくという内容だ。日本では考えられないが、サードシーズンの最終回がオンエアされたのは3月28日。大統領選を戦っていたゼレンスキー氏は大統領役でドラマに直前まで出演し、大統領選は最終回のオンエアから間もない31日に行われた。

 今回の大統領選挙では、ドラマ「人民の執事」の影響力が、政治経験の全くないゼレンスキー氏を勝利させた最大の原動力であったと見る人は少なくない。アメリカのトランプ大統領は2004年から始まったリアリティショー「アプレンティス」で、毎週出演者の1人をクビにしていく冷酷な経営者を好演したが、これがアメリカの若い有権者に優れた経営手腕を持つリーダーというイメージを刷り込む結果となり、大統領選挙でのイメージづくりに一役買ったとされている。ゼレンスキー氏の手法は、トランプ大統領のものよりも、さらに徹底している。

 ゼレンスキー氏は2018年の大晦日に大統領選挙への出馬を表明したが、すでに同年3月にはドラマのタイトルでもある「人民の執事」が政党名として正式に登録されており、これまでドラマを制作していたスタッフの一部が政党のスタッフに転職までしている。ゼレンスキー氏が主人公のウクライナ大統領を演じたドラマは、前述のとおり大統領選挙直前の3月28日まで毎週木曜日に放送されていた。