米中貿易戦争の先行きを
占う際に注目したい2つの視点

 一方で、それを崩せば約9000万人いる共産党員、全国各地に分布する共産党組織を政治的に管理できないという事情もあるのだろう。自由や民主主義といった西側の価値観が共産党内で一定の吸引力を持ち、それらを信仰する勢力が党内で生まれ、一定の政治的影響力を持ってしまえば共産党として持たず、その帰結として“社会主義中国”は崩壊してしまうという危機感を習近平やその周辺は本気で抱いていると筆者は考える。

 だからこそ、今を生きる人々がどれだけ意に介していなくても、心の底から信じていなくても、“共産主義という最高理想”“資本主義との闘争”といったイデオロギーを捨てることができないのであろう。

 興味深いのは、習近平が資本主義の経験値や優位性から学ぶ必要性、そして社会主義と資本主義との関係性は闘争だけでなく協力も含まれる、言ってみれば長期的に共存していく局面が歴史的必然なのだと説いていることである。

 筆者はそこから2つの点を感じ、読み取った。

 一つは、数世代、十数世代も先のことなど習近平に読めるはずもないだろうし、そんなに先のことを語ることで逆に説得力や合理性に欠ける論述になっているようにも見受けられるが、裏を返せば、国家主席の任期を撤廃し“終身主席”を制度的に可能にした習近平でさえ、中国共産党政治という歴史的文脈のなかでは、あくまでも一人の“つなぎ役”に過ぎないのだろうという視点である。

 もう一つは、制度や国情の独自性を随所に出し、中国はあくまでも中国だ、わが道を往くのだと宣伝しているものの、中国経済と世界経済が切っても切れない関係にまで浸透しあい、多くの中国人が外国へ観光に行き、学びに行き、社会主義中国で生きる人々の生活のなかに資本主義的要素が多角的に浸透している現状下で、そんな資本主義に真っ向から対抗するというやり方は、逆に自らの首を絞めることにつながると習近平やその周辺が考えているという視点である。

 現在正念場を迎えている米中貿易戦争の行方を占う際にも、そうした視点を考慮する必要があるのだろう。

(国際コラムニスト 加藤嘉一)